テレワークは日本の働き方を変えられるか

東京オリンピックの開催を来年に控えテレワークに注目が集まっている。「オリンピック開催期間中は、都心は混雑するので、企業の皆さんは地方でテレワークしてください!」という見方をすると身も蓋もないが、オリンピックを契機に働き方を改革しようという動きには共感できる。

信濃町ノマドワークセンターのワークスペース(長野県 信濃町)

五輪本番前のテレワーク一斉実施月間

総務省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省、内閣官房、内閣府は、東京都とその関連団体と連携して2017年から2020年東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、働き方改革のための国民運動を展開している。2017年は7月24日の一日のみ実施し約950団体 6万3千人。昨年は7月23日~27日に実施され1,682団体 延べ30万人以上が参加した。今年は2020年東京大会前の本番テストとして、7月22日(月)~9月6日(金)の約1ヶ月間を「テレワーク・デイズ2019」実施期間としてテレワークの一斉実施を呼びかけている。

錚々たる顔ぶれが推進している国民運動だが、今一つ盛り上がりに欠けている気がするのは私が個人事業主だからだろうか?(笑)しかし、テレワーク、リモートワークが、大手企業やIT系ベンチャー企業の間ですでに浸透し始めているのは確かなこと。少々前の話で恐縮だが、5月30日に以前このコラムでご紹介したことがある信濃町ノマドワークセンターの内覧会が開催されたのでおじゃましてみた。

テレワーク・デイズ

ワーケーションを実現する貸し切り型リモートオフィス施設

テレワークというと在宅勤務を思い浮かべる方も多いだろう。もちろん在宅勤務もテレワークの一つだが、テレワークは働く場所を変えるだけではなく、働き方そのものを変えることが目的だ。通勤時間や通勤ラッシュ、様々なストレスから解放され、「がまんしなくてもいい働き方」を実践することで、生産性や創造性の向上を目指すものだと思う。

「信濃町ノマドワークセンター」は、信濃町とNPO法人ネイチャーサービスがつくった法人向け貸し切り型リモートオフィス施設。町の遊休施設をリノベーションして、高速インターネットを備えた最先端のワークスペースとして生まれ変わった。近隣の自然環境を活かし、仕事だけではなく森林セラピーやカヤック、フィッシング、キャンプ、ヨガなども体験できるワーケーション基地。「ウィークデイは仕事をして週末は家族や友人を呼んで自然体験を楽しむ」という利用方法も想定している。

また、Make Labと名付けられた3Dプリンタ、3Dスキャナや各種工作機械を備えた工房があるのも特色の一つ。メカトロニクス系の需要にも対応でき、農業や林業などのIT技術を活用した課題解決にも貢献していくのが目的だという。さらに、独自に脳波測定による実証実験を行い、都会の環境よりも自然環境の方が生産性や発想力が向上するというエビデンスも揃えている。

企業が地方にサテライトオフィスを開設する際、オフィスとして使用する不動産を借り上げたり、買い取ったりする必要があり、その管理維持など意外と手間と費用がかかるが、貸し切り型の施設なら、必要な期間、必要なプロジェクトのメンバーだけが施設を利用することができ無駄がない。試験的な使用が可能なので、テレワーク導入を検討している企業にとっても好都合だ。

Make Labには3Dプリンタなど工作機械が設置される(長野県 信濃町)

都会から2時間半で大自然の中に

内覧会には信濃町町長をはじめ町会議員や地元選出の国会議員などが参列し、地元での期待の大きさをうかがえた。法人向けの施設ということで、集まったのは大手企業やITベンチャー系企業の社員がほとんど。会場で何人かにお話をうかがったが、口をそろえて周辺の自然の豊かさに驚いていた。

東京から北陸新幹線の「かがやき」号なら長野まで1時間20分ほど。大宮からはノンストップで1時間かからない。長野からノマドワークセンターまで車なら50分ほどで到着する。ホールの壁面は一面をガラス張りに改装してあり、空の青さと森の緑が目に飛び込んできて、数時間前までいた都会の風景とギャップに驚かされる。雄大な大自然の中で仕事ができるということだけで、心が躍る気がした。

施設の前はオートキャンプ場で、この日は農業用ドローンのデモ飛行が行われた(長野県 信濃町)

企業の多彩なニーズに対応可能

徹底的にリノベーションされた施設内は明るく、快適で使い勝手もよさそうだ。リモート会議もでき、ホワイトボードも備えたミーティングルームは3室ある。すでにテレワークを実践しているというIT系ベンチャー企業社員にお話を聞くと、「東京からのアクセスのよさに魅力を感じました。社内、社外のスタッフで合宿形式の会議をすることが多いので、この施設なら今すぐにでも使えますね」とのことだった。

また、社員の副業を認めている某大手企業の方は、定年間近の方がこうした施設を活用して副業的にビジネスを始め、定年後にセカンドワークとして地域で起業するようなケースを想定していた。「社員が起業することで、自社のビジネス領域を拡大していくこともできるし、地域活性化に貢献できる」と話していた。

また、外国籍の社員が多く働く企業の方は「日本の自然や文化に触れてもらうこともできるので、ノマドワークセンターで仕事をしながらセミナーやガイダンスを開催できそうですね」との感想。施設のロケーションや設備面での評価はとても高かった。内装は国産材を使用し落ち着いた雰囲気。中でも地元材を使って特注したというソファに関心が集まっていた。

ソファは地元材を使った特注品(写真提供:NPO法人ネイチャーサービス)

宿泊と食事は、地域経済活性化の一助に

また、参加者には宿泊と食事に関心を示す方が多かった。合宿形式のワークショップやセミナーを開催した経験のある方によると宿泊と食事はとても重要なポイントとのこと。その点を運営団体のNPO法人 ネイチャーサービスの共同代表 赤堀哲也氏にお聞きすると「ノマドワークセンターは、あえてワークスペースとしてのサービスに特化し、食事や宿泊に関しては信濃町の店舗や施設を利用してほしいという願いがあります。幸い信濃町にはスキー客向けの宿泊施設が多数存在しています。施設内での昼食等も町内の仕出し事業者から地域の旬の食材を生かした様々なメニューを用意し、ケータリングサービスで提供する予定です。宿泊施設や仕出し事業者とは基本的な連携合意はとれています。今後は企業のニーズに合わせ、宿泊の手配をする旅行会社と連携しながらコーディネイトしていく予定です」とのことだ。

ワークセンターだけでビジネスを完結させずに、あくまで地域と共に歩んでいこうという姿勢がみられる。

東京だけがビジネス拠点ではなくなる

ノマドワークセンターの利用が進めば地域の宿泊、飲食の需要も増加し、地域に活力をもたらす。団体では町内の子供たち向けのプログラミング教室等の開催も考えているようだ。こうした施設の存在は、地域の人たちへのよい刺激となるのではないだろうか。都会(東京)に出なくても最先端のビジネスに触れられることで、若者たちの都会への流出を止めることができるかもしれない。

また、このようなテレワークによってゆとりある働き方が実現し、地域で新規ビジネスが生まれ、地域が活性化していくことで、ひいては日本全体に新しい活力が生まれてくるのではないだろうか。

町の遊休施設をリノベーションした信濃町ノマドワークセンターの外観(写真提供:NPO法人ネイチャーサービス)

信濃町ノマドワークセンターのプロモーション映像

フリーランスのコピーライター。「緑の雇用担い手対策事業」の広報宣伝活動に携わり、広報誌Midori Pressを編集。全国の林業地を巡り、森で働く人を取材するうちに森林や林業に関心を抱き、2009年よりNPO法人 森のライフスタイル研究所の活動に2018年3月まで参画。森づくりツアーやツリークライミング体験会等の企画運営を担当。森林、林業と都会に住む若者の窓口づくりを行ってきた。TCJベーシッククライマー。

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