オーストラリアの森林火災、石炭輸出に対する批判も

■モリソン首相の言動に集まる非難

消防士に助けられたカンガルーの赤ちゃん。今回の火災で10憶以上の野生動物が命を落としたといわれる

森林火災が勢いを増す中、昨年12月には国の長であるスコット・モリソン首相がハワイで休暇を楽しんでいることが発覚した。火災に無関心で、気候変動がこの火災の規模を拡大している一因であることを断固として否定する首相に国民は怒りは爆発。視察に赴いた首相に不満をぶちまける被災者の姿が、メディアで報道されている。

火災の威力がさらに増す中、モリソン首相は政府の火災への対応を擁護する一方で、救助や消火のために、軍の導入やさらなる予算の確保を決めたことをツイッター上のビデオで発表した。集中する非難を免れようとした。しかしこの行動は裏目に出、「死者を出すまでの災難を広告にしている」「広告制作のお金はどこから出ているのか」とかえって国民の反感を買う事態になった。

■森林火災の悪化は気候変動が原因

昨年11月にモリソン首相は「CO2排出量を削減したからといって、森林火災の深刻さが軽減されるという科学的証拠はない」と発言している。つまり、森林火災と気候変動は無関係だというスタンスを明らかにしたわけだ。

しかし、今年に入ると「政府は以前から森林火災と気候変動の関連性を認識しており、気候変動問題を軽視しているわけではない」と、先の発言を翻している。

森林火災と気候変動の関連性は、世界の主だった研究機関が認めている。気候変動が森林火災を引き起こすわけではないが、火災を悪化させるという。森林火災のリスクには、気温や可燃物量、乾燥度、風速、湿度などの要因が影響する。

CO2の量が増えると気温が上昇することは科学者の意見が一致するところであり、ここ数十年の間にわたってオーストラリアの気温は上昇を続け、平均気温は約1度高くなっている。

12月中旬には2日続けて高温の日が続き、平均最高気温は約42度に達し、記録を塗り替えた。以前から科学者は、今回のように長期にわたる干ばつの後で気温が上がると出火の原因になることを指摘していた。今後、こうしたケースはさらに頻発し、より大きな被害をもたらすと予測する。

■G20で最悪の気候変動対策、石炭産業への執着も

石炭産業に反対して行われたデモ。メルボルンで (C)Stop Adani (CC BY 2.0)

批判は、同国の気候変動対策の甘さにも及ぶ。オーストラリアの気候変動への取り組みはG20で最悪の1つとしてランク付けされている。2014年、炭素価格制度を廃止して以来、温室効果ガスの排出量は増加する一方だ。2030年までに達成を目指す、同国のCO2削減目標は2005年比26~28%と、消極的な数字に留まる。

問題視されているのは削減目標の低さだけではない。モリソン政権は、目標を達成するために必要な削減量の半分以上を、パリ協定以前に創出した、過剰実績を繰り越して埋め合わせをするという。各国の努力に水を差すこの行動に、世界から批判が出ている。

昨年12月に発表された、国民の気候変動に対する意見をまとめた『クライメート・オブ・ザ・ネーション・2019』によれば、対象者の64%が「2050年までにゼロエミッション達成」という国家目標を掲げるべきだと考えている。しかし、モリソン首相は森林火災の鎮火の努力を行っていることを強調し、国の経済を擁護するのみに終始している。

モリソン首相は気候変動と森林火災の関連性を認めながらも、伝統的な石炭産業のからの撤退について「無謀」とコメントした。昨年11月の労働統計(同国統計局)によると、石炭産業はなお約5万人を直接的に、12万人を間接的に雇用している。計約17万人に上る雇用が失われ、676億豪ドル(約5兆円)という輸出収入を棒に振ることはできないと、首相の石炭輸出への意気込みは変わらない。

事実、オーストラリアの石炭輸出額は2019年6月期に、品目別で鉄鉱石を抜いて初めて首位になる見通しになった。欧州を中心に石炭離れは進んでいるが、経済成長が続くアジアの新興国では、なお石炭への需要が高く、石炭価格も上昇している。

オーストラリアが石炭産業継続の意志を変えない一方で、その主な輸出先である日本や中国は、クリーンエネルギーへの移行を進めている。国際再生可能エネルギー機関によれば、それをリードするのは中国だという。2023年までは石炭を要する中国も、以後はクリーンエネルギーが石炭に取って代わることになる。

オーストラリアも、この状況を把握し、有効な気候変動対策を迅速に講じる時が来ている。

mari

クローディアー 真理・ニュージーランド

1998年よりニュージーランド在住。東京での編集者としての経験を生かし、地元日本語月刊誌の編集職を経て、仲間と各種メディアを扱う会社を創設。日本語季刊誌を発行するかたわら、ニュージーランド航空や政府観光局の媒体などに寄稿する。2003年よりフリーランス。得意分野は環境、先住民、移民、動物保護、ビジネス、文化、教育など。近年は他の英語圏の国々の情報も取材・発信する。執筆記事一覧

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