論説コラムー郡山に新産業、「おらげのワイン」

原田勝広
オルタナ論説委員

東北新幹線の福島・郡山駅から車で猪苗代湖方面へ向かい30分。磐梯山から吹きおろす風がまだ肌寒い山裾にふくしま逢瀬ワイナリーがある。東日本大震災を機に興した新産業である。

震災直後、100億円(2015年に35億円追加拠出)で支援基金を創設した三菱商事は被災者の心のケアなどに社員ボランティアを派遣する一方、学生向けの支援奨学金やNPOへの助成などにも積極的に取り組んできた。復旧から復興へ向かう段階では、三菱商事復興支援財団を設立、産業復興、雇用創出のため水産、ホテル・旅館、乳業など51もの事業を支援してきた。そんな時、社内から自分たちで直接、何かできないかという議論が沸き起こった。昨今のSDGs、ESGブームの時代と違い、まだCSRの時代だったが、慈善ではなくビジネスで社会に貢献したいという熱い思いが共有されていた。

とりわけ、復興からひとり取り残され、原発被害、風評被害に苦しむ福島を何とかしたい、そんな意識が強かった。

「農家と一緒にできることはないか」

「既存の農家とコンフリクトが起きないようにしたいね」

植物工場はどうかというアイデアも出たが、人工的な工場栽培にはあまり反応はよくなかった。誰かが福島の誇り、この地が持つ価値って何だろうとつぶやいた。

「ここは桃に梨、それからリンゴ。福島は果物王国だ」

「それだ。フルーツで酒を造るというのはどうだろう」

「じゃあ、ワイン?」

アイデアはいい。しかし、ワインづくりは簡単ではない。水はけの良いやせた土地が向いていると言われる。土壌によって品種が限定される。日照や雨がブドウの成熟に決定的に影響する。そもそもワイン用のブドウをつくっている農家が存在するのか。あまりにもハードルが高い、とワインづくりに反対する関係者も少なくなかったのではないか。

今では一番の協力者である郡山市も、はじめは半信半疑だった。ところが三菱商事側の熱意は揺ぎなかった。とにかく突っ走った。あるのは福島をなんとかしたいという憑かれたような熱意だけだった。

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原田勝広
オルタナ論説委員
日本経済新聞記者・編集委員として活躍。大企業の不正をスクープし、企業の社会的責任の重要性を訴えたことで日本新聞協会賞を受賞。明治学院大学教授に就任後の専門は国連、CSR, ESG・SDGs論。2018年より現職。著書は『CSR優良企業への挑戦』など多数。

2020年3月13日(金)9:22

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