ワイナリーでは、ビジネスの可能性を広げるため、ワインだけでなく福島県産のリンゴを発酵させたシードルや、それを蒸留したカルヴァドス、さらにリキュール類も生産している。関心を持ってくれるレストランも増えつつあるし、英国で開催された「インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション」(IWSC主催)では福島県産のリンゴ「ふじ」を原料からつくったリキュールが銀賞に輝いた。いま日本ワインは世界的に評価が高まっている。それを反映して国内のワイナリーも若手の参入が増えており、競争は激しい。
2年目の2020年ヴィンテージのワインを近く販売するが、経営は赤字でまだまだこれからといったところだ。ブドウの木はまだ若いし、土壌の改良にも時間がかかる。醸造の体制も規模も小さい。
それでも、「一般の市場で受け入れられる質の高いワインづくりが目標。おいしくて、どんどん売れ、なかなか手に入らない。そんなワインがつくれるようになりたい」と渡辺さんは夢を膨らませる。
東日本大震災から9年。会社の大方針を見事に花咲かせているのは、小さな街にグローバルな普遍性を見い出し、細部にこそ真実があると信じて現地で活動を続ける社員がいるからこそだと教えてくれる。 (完)