「1L for 10L」、売上減少でも続行

社会問題の解決や弱者の救済を志向しながら自社の売上高も上げることを目指すソーシャル・マーケティング。その代表例として挙げられることが多いボルヴィックの「1L for 10L(ワンリッターフォー テンリッター)」が岐路に立っている。ミネラルウオーターの出荷1リットルごとに、安全な水10リットルを西アフリカ・マリで供給するプログラムだが、スタート3年目以降は売上高が減少傾向に転じたという。

「1L for 10L」は、元々、ボルヴィックを展開するダノングループのドイツ法人で2005年に始まった活動で、その後各国の現地法人に広がった。2006年にフランス、2007年には日本でも展開されることになった。

ボルヴィックを日本で展開するダノンウォーターズオブジャパンは、4年目を迎えた2010年は、製品の購入だけでなく、ツイッターやブログからでも支援に参加できる「Twitter & Blog for 10L」を実施した。ツイッターの1フォローごと、ブログでは自身のブログにブログシールを貼るごとに、10リットル供給される。09年に続き、三洋電機ドラム式洗濯乾燥機AQUAの総売上の中からも、250万円が「1L for 10L」に寄付される。

今後10年間でアフリカのマリ共和国に供給される水の総量が4億5101万3110リットル(ツイッターとブログからの供給量67280リットル含む)に達する。2010年のキャンペーンでは、2700万円がユニセフに寄付される。

過去3年間の「1L for 10L」プログラムによる支援の結果、マリのモプティ地方およびガオ地方で、2010年10月21日までに、43基の手押しポンプ付の深井戸の新設、100基の故障していた手押しポンプの修復、1基のソーラーパネルを備えた給水設備の建設が完了している。単なる施しではなく、現地の人々が自立できるようにと、井戸のメンテナンス、ポンプを修理するためのトレーニングも実施している。

4年間を通じたこれらの活動を通じ、受益者総数は延べ20万人を超える予定で、マリ国民の約1.6%にあたる人々に日本の「1L for 10L」プログラムを基に、清潔で安全な水が届くことになるという。

しかし、ダノンウォーターズオブジャパンはこのほど、「1L for 10L」の2010年キャンペーンでは、前年比89%に終わったことを明らかにした。プロジェクトを開始した07年は、前年比31%増、08年はそれに上乗せして12%の伸びを見せたが、09年からは減少傾向にある。

ミネラルウォーターの輸入ブランド全体の数量が2007年の約58万キロリットルをピークに、年率3―6%ほど落ち込んでいる(日本ミネラルウォーター協会調べ)のも原因のようだ。

ソーシャル・マーケティングを行ううえで懸念されるのが、「持続性」である。一過性のプロジェクトに終わってしまっては、消費者や被援助国からの反発さえ予想される。

ダノンウォーターズオブジャパン・ボルヴィック「1L for 10L」プログラム・大塚竜太プロジェクトリーダーは、「ダノングループでは支援の持続性を重視し、そのため売上高の一部を寄付するという形態での活動としている。そうすることで、該当年度の予算の大小にかかわらず、継続的な展開が可能になる」と現状を説明する。売上の増減にかかわらず、2011年も「1L for 10L」プログラムを展開するという。

ユニセフ・マリ事務所の水と衛生担当官・トゴタ・ソゴバ氏は、「プロジェクト開始当初は、売上の大小によって支援が中止されるのではないかと懸念していた。しかし、企業がプロモーションをすることによって、日本の一般市民に広く、マリの深刻な水の問題を認知してもらえれば、それだけでも大きな成果になる」と話す。

企業の利益とは、必ずしも売上高を指すものではない。「1L for 10L」のように、企業のブランド価値向上や社員のモチベーションアップなど、目に見えない利益を生み出すこともあるだろう。ソーシャル・マーケティングの実践により、企業と社会の利益を同時に実現することは可能なのか。企業の手腕が問われる。(オルタナ編集部 吉田広子)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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