快適「EVタクシー」、普及の課題は

日の丸リムジン(本社・東京)は、東京の大手町、丸の内、有楽町地区で、2010年3月から電気自動車(EV)タクシーを運行している。日本でも先駆的な取り組みだが、10カ月が経過した。どのような成果と課題があるのか。

■快適なドライブで、東京を楽しむ

【写真】日の丸リムジンの富田和宏専務とドライバーの渡辺明美さん

白いボディ、グリーンのドアのEVが東京のビル街を走る。愛称は「ゼロタクシー」。「これまでの延長ではない近未来のタクシーの姿を探りたかった」。日の丸リムジンの富田和宏専務は事業を始めた理由を話す。この愛称には、走行中の排気ガスがゼロ(=ゼロエミッション)と、生活者目線で公共交通の原点(=ゼロ)に戻る、という2つの意味を込めた。

ゼロタクシーは2台運行され、いずれも女性ドライバーが運転する。「『一度乗ってみたかった』と呼び止め、乗ることを楽しんでいただくお客さまが多いです」。ドライバーの渡辺明美さんは話す。中には走った後で、ゼロタクシーを背景に渡辺さんと記念撮影をする人もいる。「乗っていると世の中にいい影響があると感じられますし、私自身も楽しくなります」(渡辺さん)。

乗り心地は快適だ。車両は三菱自動車が09年から販売したアイ・ミーブ(i-MiEV)を使う。電動モーターで走行するために静かで、排気ガスもなく、加速もスムーズだ。

ゼロタクシーには、さまざまな協力の依頼が舞い込む。千代田区観光協会はゼロタクシーを使う都心観光ツアーを今年2月まで実施する。また行政の担当者の見学も絶えない。各自治体は、高齢化が進行する中で、移動に便利な交通体系の作り直しを進めている。そのために静かで乗り心地がよく、車体の小さなEVを利用できないかと注目している。

■「インフラ不足」が普及の課題

しかし、この運営にはコストと社会インフラの問題がある。ゼロタクシーの車体価格は約460万円だ。国や自治体の補助金が約110万円あるものの、同クラスのガソリンエンジンの軽自動車が120万円前後であることからすれば割高だ。

またゼロタクシーの運行は平日の午前8時30分から午後6時30分までに限定している。その理由はインフラ面での制約のためだ。急速充電器の数が少なく、100kmほど走れるEVでも電気切れの不安がつきまとう。

時間が限定されているため収益はかなり厳しい。負担は現時点では日の丸リムジンが引き受ける形になっている。「ユーザー、行政など、多くの皆さんと相談し、EVタクシーの未来を考えたいです。エコと利便性、そしてビジネス上の収益をいずれも満たす形は必ずあるはずです」と富田さんは期待する。

各自動車メーカーが相次いで量産を進めるなど、世界でEVへの関心が高まる。その中でゼロタクシーの先駆的な取り組みは、新しい車の可能性を感じさせる。(オルタナ編集部=石井孝明)2011年1月4日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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