高金利が仇に? ユヌス総裁解任劇

ムハマド・ユヌス氏(wikimedia Commons.)

バングラデシュで貧困層に少額融資を実施するグラミン銀行の創始者で、ノーベル平和賞受賞者のムハマド・ユヌス総裁(70)が3月2日、同国中央銀行により強制的に解任された。その理由として中央銀行は同国の公務員に適用される60歳定年制度に抵触したためと説明しているが、グラミン銀行は同日に「ユヌス氏は合法的に任命されており、今後も職務を続ける」との声明を発表。法的に争う構えだ。

■「貧困層から収奪」批判の声も

ユヌス氏は、これまで銀行が「経済力がない」として相手にしなかった貧困層に対して少額を貸し付け、経済的な自立を促すマイクロクレジットを考案。借り手は融資を元手に商売を興し、得た利益から返済する仕組みだ。

バングラデシュ国内では5千万人がグラミン銀行を利用しているといわれ、その半数がマイクロクレジットにより最貧困層を脱したとされる。グラミン銀行とともにノーベル賞を受賞したのも、社会の底辺における経済的・社会的発展に寄与した功績が認められたためだ。

しかし最近では、グラミン銀行の事業資金の貸付利率が上限で20%前後と高率であると指摘されるほか、昨年末にはインド南部で女性が多重債務を苦にして焼身自殺したが、その負債の中にマイクロクレジットが含まれていたと報じられた。また、バングラデシュのハシナ首相も昨年12月にユヌス氏を「貧困救済の名のもとに貧しい人の血を吸いあげている」と非難していた。

■ユヌス氏嘆く「マイクロファイナンスを曲解」

もっとも、ユヌス氏は同国の二大政党制に対して批判的で、氏が07年に独自に政党「市民の力」を立ち上げたことがきっかけで、ハシナ首相とは仲が悪いと伝えられる。今回の解任劇はユヌス氏の影響力低下をもくろむ現政権の圧力という側面が大きいのは事実だ。

また、マイクロクレジットが「高利貸し」であるとの指摘についても、ユヌス氏は貧困層の支援から外れて大儲けをたくらむ貸付業者を厳しく批判しているとされる。インドで横行している貸し付けは最大で金利が36%に達するものもあるというが、ユヌス氏は金利について、昨年末の米ブルームバーグの取材に対して「資金調達コストに10%を上乗せしたのが融資金利の目安だろう」と説明する。また、同取材でユヌス氏は「マイクロファイナンスが曲解され、乱用されている。これは私が作り出したマイクロファイナンスとは違う」と嘆いている。

最貧困層のセーフティネットであるはずのマイクロクレジットが、世界へ急速に広がる中で変質しているのか。その検証が求められる。(オルタナ編集部=斉藤円華)2011年3月3日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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