日本人はフクシマから何を学べるか(編集長)

今日4月11日でちょうどあの日から一カ月。まだ多くの方が、避難所で不自由な暮らしを強いられている。まだ多くの方が、瓦礫や海の中で発見されないでいる。

東日本大震災から、私たちは何を学んだだろうか。何を学ぶことができるだろうか。

最も大事なことは、「私たち人類にはコントロールできないものが、まだまだたくさんあること」を知ることではないだろうか。

死者21959人を出した1896(明治29)年6月15日の明治三陸地震以来、日本では死者100人以上を出した津波が8回も起きている。100年余りで8回も、だ。

防潮堤など近代的な設備がいかに大津波に対して無力であったかも、今回の大地震で図らずも明らかになった。

簡単に破られた、封じ込めの「五重の壁」
「原子力」も、私たち人類には手に負えないものと分かった。「大津波は想定外だった」と多くの関係者は口をそろえるが、100年余りで8回も起きていることを想定外と言うのでは、専門家の資格はない。

いずれにしても、原子力発電という代物は、ひとたび冷却の仕組みを失えば、メルトダウンを防ぐのが難しい。

電気事業連合会のホームページ資料によると、「自己制御性と『五重の壁』などにより放射性物質を安全に閉じ込められる」とある。

五重の壁とは1)ペレット2)被覆管3)原子炉圧力容器4)原子炉格納容器5)原子炉建屋――の五つだが、福島第一原発1号機~3号機ではそのすべてが損傷したことは、小学生でも知っている。そこに「自己制御性」は働かなかった。

もうこれ以上、日本で原発を新設するのは、合理的ではない。マサチューセッツ工科大学(MIT)で原子力を研究した大前研一氏もそう指摘している。

日本の原発すべてを即時に停止するのは難しいだろうが、浜岡原発など旧型軽水炉(BWR)から順に停めていき、原子力発電のシェアを下げていくことが安全面からも、コストの面からも求められる。

この原発事故は、日本の原子力政策を転換し、太陽光や風力など、自然エネルギーのシェアを上げる契機にしなければならない。

欧州の環境志向はチェルノブイリから始まった
ドイツでは、今回の原発事故を受けて、2020年までに脱原発を望む国民が全体の86%に達した(ドイツ国営放送ARDが4月に実施した世論調査)。

明らかに、今回の原発事故において、欧州人たちは、日本人よりも放射能汚染に敏感だった。欧州の大使館が相次いで首都圏を脱出したことも話題になった。

外務省によると、スイス、ドイツなどの5か国は大阪市、フィンランドは広島市、パナマは神戸市で大使館業務を移管するなど、首都圏を逃げ出した在外公館は25カ国に達した。自国民避難のためのチャーター便を用意した国も、欧州が多かった。

「欧州人たちの反応は行き過ぎ。その背景には、アポカリスティック(地獄の黙示録的)な報道をするメディアや、それを求める市民の気質がある」と、岩手県立大学のウヴェ・リヒタ教授(ドイツ出身)は指摘する。

と同時に、同教授は「ヨーロッパの環境志向は、チェルノブイリの原発事故をきっかけに大きく加速した」とも付け加えた。ドイツでは、同事故による残留放射能によって、いまだに食べることができないきのこ類があるという。

放射能汚染事故をきっかけに、欧州では、食の安全性に対する関心が一気に高まった。放射能だけではなく、農薬や化学肥料にも目が向けられた。

例えばハチの大量死に強い因果関係があるとされる、ネオニコチノイド系の農薬に対しても、フランスを筆頭に、オランダ、デンマーク、ドイツ、イタリアなど欧州各国で相次いで使用禁止になった。一方の日本では、まだ野放し状態であり、農水省の対応は遅れている。

「日本人は食の安全に敏感」は間違い
日本人は食の安心・安全に敏感だ、とよく言われるが、それは違う。確かに賞味期限の改ざんや産地偽装などには敏感に反応するが、農薬の問題や有機農業への関心は、まだ低い。

オルタナ5号(2007年12月)で特集した「オーガニック1%の壁」では、耕地面積に占める有機農業の作付面積比率はスイスの10.9%やイタリアの8.4%に対して、日本は0.16%に過ぎない(IFOAM調べ)と書いた。

日本は米国(0.5%)や中国(0.41%)にすら劣っているのだ。

エネルギー問題でも、日本ではなぜか、「太陽光発電や風力発電などの自然エネルギーはコストが高く、供給力も不安定」という俗説が支配している。

電力会社などによる世論操作が功を奏したのだろうが、日本人は早くこの誤謬から逃れなければならない。

原子力発電のコストは太陽光発電の3分の1という数字がよく引用されるが、今回の原発事故の補償費を乗せると、どれくらいになるだろうか。石油や石炭火力のコストも、今後の原油価格の高騰で大きく跳ね上がる可能性が少なくない。

オルタナ20号(2010年8月)に登場した環境学者のレスター・ブラウン氏は「日本に壮大なポテンシャルがあるとすれば、それは地熱発電だ」と指摘した。「地熱であれば、日本はナンバー1になれる」と説く。

日本地熱学会会長の江原幸雄・九州大学大学院教授は「(火山帯が多い)日本列島は地熱エネルギーの宝庫」との自説で、同名の書籍(櫂歌書房)も上梓した。日本で地熱発電は、不当に低い地位にある。いまこそ光が当たるべきだ。

火力発電の増設はCO2削減に逆行する
東京電力は、今回の原発事故を受けて、火力発電の設備増強を図り始めた。環境省も、環境影響評価(アセスメント)を免除する意向だ。これは、CO2削減という京都議定書の大義に反する動きといわざるを得ない。

いま、日本は自然エネルギーを加速するための、最大かつ最後のチャンスにある。
この時期に転換できないと、未来永劫、できない可能性が高い。

自然エネルギー、有機農業などグリーンな事業を定着させることができるか、まさにいま日本人が問われている。

欧州人は、チェルノブイリの事故から多くを学んだ。日本人は「フクシマ」から何を学べるだろうか。(森 摂=オルタナ編集長)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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