
投資家がお金に善意を込める新しい社会潮流の「社会的投資」。関心が広がる中で先駆的な実践例を積み重ねる企業がARUN(アルン、東京都千代田区)だ。カンボジアで波及効果の大きなソーシャルビジネス(社会的企業)に投資を行ってきた。「人々が幸せになってほしい」。願いを込めたお金が、少しずつではあってもカンボジアを良い方向に変えている。
「アルンはカンボジア語で暁、夜明けという意味。 新しい社会を作ろうという希望を表します」。代表の功能聡子(こうの・さとこ)さんは説明する。功能さんは戦乱で荒廃したカンボジアに1995年から10年間住み、JICA(国際協力機構)などで国際協力事業に力を注いだ。その経験を踏まえて「ビジネスからカンボジアをよくする方法があるのではないか」という問題意識を抱いた。そして新しい流れの社会投資を学び、2009年12月にアルンを合同会社の形で立ち上げた。
善意にはそれに応える動きが必ずある。現在までにパートナーと呼ばれる出資者は57名となり、約5000万円が集まった。出資金は一口50万円。そこから利益が得られることは保証していないが、それでも人々が支えた。そしてマイクロファイナンス、事業支援などの専門家が功能さんを知恵の面からも助けた。
土谷和之さんも集った専門家の一人。社会的投資の普及や啓発、そしてファンドの立ち上げを担当するディレクターとして、また出資者として参加している。民間シンクタンクに勤めながら、環境NPOのアシードジャパンの理事を努め、社会的投資を広げる活動をする。「一方的な援助ではなく現地の人々が働き価値が生み出される仕組みを工夫しています」と話す。
カンボジアでは、個人や家族的経営向けのマイクロファイナンスは約20の団体が実施し、大手企業には現地の銀行が融資を行う。アルンが行う中小企業向け投資はいわば「隙間」だ。同社は現地でマネージャーを雇い、日本での専門家の知恵を借りながら「ハンズオン」の事業支援を行っている。

アルンは農作物商社「サハクレアス・セダック」の有機米と蜂蜜の製造・販売事業、そして女性の髪を女性用のヘアーエクステンション(部分かつら)にする「アルジュリ」という2社に投資をする。これらの会社は作物を出荷する農民、また髪を売る女性などに、適正価格で原材料を購入している社会企業だ。両社からは「投資によって、事業が広がり人々が助かる」と、感謝の言葉が届いているという。
「私たちの取り組みは成果がでるまでは時間がかかるでしょう。ですが日本の皆さんのお金を大切に、じっくりと使い、現地の人々を幸せにするビジネスをつくりだせば、ただ渡すだけの援助よりも大きな効果が見込めます。信頼、そして幸せが広がります」と功能さんは期待する。

善意をただ渡すだけではなく、それが形になり、育つ形への援助。アルンの小さいながらも着実な営みは、そうした社会的投資の可能性を示している。(オルタナ編集部=石井孝明)
<お知らせ>アルンは社会的投資に関するシンポジウム、勉強会なども行っている。10月6日(木)、15日(土)には、出資説明会を開催する。詳細はこちら