「収入は10分の1。それでも『命』を守りたかった」――山本太郎氏(俳優)インタビュー

■僕が失ったものは「収入だけ」

――「脱原発」宣言をして、仕事が無くなる不安はありませんでしたか。

実際に、仕事の量は減りました。ただ、演技は一生、続けていきます。3.11以降、日本人、特に被災者は多くのものを失いましたが、僕の失ったものはハッキリ言えば収入です。10分の1以下に減り、初任給に戻ったという感じです。

逆に言えば、失ったのは「収入だけ」です。お金を払っても手に入れられないものを沢山、手に入れました。それは生きることに対して、真正面から真剣に取り組んでいる人たち、気骨のある大人たちとの出会いです。

――これまで参加したデモの数は。

山本:数え切れません。4月10日に高円寺で行われたデモに初めて参加しました。初デモです。

初めてのデモなので、正直、どういったものか分かっていませんでした。デモのイメージは「ジュラルミン、火炎瓶」というものでした。だから、デモに参加したいと言った母を止めました。母を守るために、二人が逃げ遅れる可能性を恐れたのです。

でも、高円寺に着いてデモ隊を見たときに、温かいものを感じました。こんなにもデモには愛が溢れているのかと。これがデモなのか、こんなにも同じ方向を見ている人がいるのだと実感できて熱いものがこみ上げてきました。

■デモを分散させるのはもったいない

――デモの意義はどこにあるとお考えですか。ご自身で何か団体を立ち上げる予定はないのでしょうか。

各団体を後方支援するために、自分では団体を立ち上げないつもりです。僕の役割は各団体をつなぐことだと思っています。正解は分からないですけれどね。

そして、皆、心が折れそうになる時があります。デモに参加することで、自分と同じ方向を向いて闘っている「一人」がこんなに大勢いるということを確認することにデモの意味があると思います。そういった「一人」がデモに参加することで再び活力を得て、戦いに戻るための場でもあると思います。

デモのもう一つの大きな意味は「数」です。数を揃えて、マスコミが取り上げざるを得ない状況にもっていくことです。それには同じ街で、同じ日に別の団体が2つも、3つもデモをやるのはもったいないです。

全国同時多発デモのような流れもありますが、人数を分散させるのは得策じゃないと思っています。例えば、品川に3000人、渋谷に5万人、神奈川、横浜には200人集まったとします。確かに、その街の人びとに問題提起されたかもしれない。でも、大切なことは視覚に訴えることです。

そのために一番有効なのはマスメディアを使うことです。だから、今回は東京で集まろう、その次は横浜で、という具合に遠征しながら、分散していた人数を集めるべきです。そして、「渋谷に6万人」「横浜で6万人」という既成事実を積み上げていく必要があると思います。

■政治家に原発の是非を問いたい

――デモに参加し声を上げることも大切ですが、投票などによって国を動かすことも大事だと思います。デモ以外に、政治家に働きかけることはしないのですか。

山本:今、政治家たちに対して包囲網を作ろうと、皆さんに呼びかけています。「仕事をちゃんとしなければ、落とすぞ」ということをハッキリと政治家に伝える。地元選出の国会議員に対して、電話をして下さい。秘書でも良いから、きちんとこちらの考えを伝えて下さい。

その時に伝えて欲しいことが3つあります。

1つ目は原発についての考えを聞いてください。その時に、重要なのは、長話にさせないことです。YesかNoに近い回答を求めて下さい。言い訳じみた、曖昧な答えを許さないで下さい。イエスかノーで意思表示させることが大切です。

原発について即時停止です、と言えるのは共産党だけです。ほとんどの議員は「段階的停止」と答えるでしょう。でも、僕はインチキだと思っています。エネルギーはもう足りている。これはハッキリしています。この後に及んで段階的停止をする意味があるとすれば、停止までの期間、利権に群がる人びとの懐を肥やすだけです。ですから、段階的停止と答える議員には注意が必要です。

段階的停止と答える議員には、そのスピードを問いて下さい。それと、その先のエネルギーの展望。僕は、原発停止までの間は火力発電でつなぐしかないと思っています。すぐに自然エネルギーで全てをまかなうのは現実的ではありません。研究やインフラ整備には時間が必要です。その間は、環境負荷の少ない天然ガスに頼ることになると思います。

2つ目は福島の「中通り」や茨城の北部、群馬、栃木の一部などの高線量地帯、高汚染地帯に住んでいる人たちについてどう思っているのか。その人たちを疎開させる案をちゃんと考えているのか、その案はいつ提出するのかについて尋ねて下さい。

政治家はお尻を叩かないと動きません。次の選挙を待っている間にも、刻一刻、被爆者は増えています。もし、その議員が高汚染地帯の住民に対する明確な考えを即答できないのならば、それが、その議員の人間に対するスタンスです。

そこに気付かなかった議員もいるかもしれないので、アイデアがなければ、政策にまとめるまでの時間の猶予を与えましょう。その代わり、その間の努力をチェックする必要があります。

最後、3つ目はガレキの拡散についてです。そして、最終処分地に関してどう思っているのかを尋ねて下さい。これについては皆、答えづらいはずです。反感を買うのはこわいですから。

僕が発言するだけでも、もの凄い数の抗議が来ますか。僕の考えでは、最終処分地は、福島の周辺20キロにとどめるべきだと思っています。こういう議論が一般の人びとの間でもっと盛んにされないといけないと思っています。そうでないと国が秘密裏にまとめあげた政策に基づいて、放射能をばらまかれてしまう。全国に汚染されたガレキを拡散させるのは愚行以外の何物でもありません。

日本全国で原発事故を発生させるに等しい行為です。埋め立てた汚染物質が地下水に流れ込めば、日本から汚染されていない土地がなくなります。それなのに、実行しようとしている。ばら巻こうとしている。そこには裏があるはずです。

――政治家にはどうアプローチするのですか。

山本:地元選出の議員の事務所に電話します。秘書が出たら、期限を設けて回答をもらってください。絶えず、問い合わせの電話が鳴るのが理想的です。

僕は、規模の大小を問わず、皆さんの前で話す機会がある時には「一番良いのはここにいる全員が電話をしてくれること。でも、そうはうまくいかないでしょう。この中の10人だけもいいから行動を起こしてくれると日本は変わります。全員が電話すれば必ず変わる。この町から日本を変えよう」と呼びかけてきました。

――20代の投票率向上を目指すアイ・ヴォートという学生団体があります。彼らは最近、自分の考えに近い環境政策を打ち出す政党を測定するサイトを立ち上げました。

山本:素晴らしい!僕たちも似たようなことをやろうとしています。僕たちは、議員に直接電話をして、そのやりとりを映像として、全国に配信していくことを検討しています。
今、そのためのホームページづくりを進めています。

■国民の「無関心」が今の社会を作った

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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