環境汚染の愚を訴えたレイチェル・カーソン『沈黙の春』、出版から50年

レイチェル・カーソンの『沈黙の春』(写真は新潮文庫)

2012年は『沈黙の春』出版50周年にあたる。著者のレイチェル・カーソン(1907-1964)は、当時の米国で盛んに散布されていた殺虫剤など化学物質の毒性や被害を調査。同書で、生き物が死に絶え、鳥も鳴かない「沈黙の春(Silent Spring)」の到来を警告した。

レイチェルは米国魚類野生生物局に公務員として勤めながら、海洋生物学の知識に裏打ちされた詩情あふれる文章で自然界の仕組みや魅力を伝える作家として活躍した。

『沈黙の春』は、農薬散布の実害を訴える手紙を受けて執筆。1962年に出版されると世界的なベストセラーとなった。各国で環境政策や公害対策が始まり、殺虫剤DDTの使用も規制された。

同書出版の2年後に、レイチェルは56歳で他界した。執筆中は、がんとの闘病に加えて、薬品業界などからの中傷にも悩まされた。しかし、子どもと一緒に自然観察に没頭する時間を愛し、生命の営みに深く感動してきた彼女は環境汚染を見過ごせず、4年かけて同書を完成させた。

レイチェルは「世界中の子どもに、生涯消えることのない『センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性』を授けてほしい」(上遠恵子訳、新潮社『センス・オブ・ワンダー』より)と願っていた。近年再び、その「感性」に注目が集まっている。

晩年のレイチェルを女優のカイウラニ・リーが一人芝居で演じる『センス・オブ・ワンダー』は、2005年の愛知万博でも上演された。その演劇を映画化した『レイチェル・カーソンの感性の森』(2008年、米国)が、2011年2月に日本で公開された。ちょうど東日本大震災発生の2週間前だった。

レイチェルの生誕80年を機に発足した市民団体「レイチェル・カーソン日本協会」の関西フォーラムの原強代表は、2011年9月に『“沈黙の春”の50年 未来へのバトン』を出版。福島第一原発事故にも触れながら、改めてレイチェルの思想を紹介した。

また、同会の関東フォーラムは、5月26日に『沈黙の春』50周年記念の講演や自然観察会を日比谷公園で開催予定だ。関東フォーラムの田和恭介会長は「子どもたちに自然の大切さを伝える取り組みこそ、環境問題解決の基本」と語った。(オルタナ編集部=瀬戸内千代)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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