IAEA「お墨付き」も地方は冷静――ストレステストで

IAEA調査団が日本政府に提出した報告書の表紙

原子力発電所のストレステスト(耐性検査)に対する国の審査方法で、IAEA(国際原子力機関)の調査団が「妥当」との判断を示した。しかし、これへの地方の反応は冷静だ。

「保安院の手法がIAEAの基準と合致しただけ。ストレステストのみでは再稼働判断には不十分」。来日中のIAEA調査団がストレステストの審査方法を適切とする報告書を経済産業省原子力安全・保安院に提出した1月31日、福井県の石塚博英・安全環境部長は、東京電力福島第一原発事故の知見を踏まえた暫定的な安全基準を求めるとする県の立場は変わらない、との考えを強調した。

原子力行政への地方の不信感は強まる一方だ。原発の運転期間をめぐり、政府は「原則として40年」との方針を打ち出した直後に「60年まで延長を認める」との案を示しており、一定しない。

「政府方針が極めてふらついている」(1月18日、泉田裕彦・新潟県知事)「政府の方針と受け止めるが、内閣で十分議論された結果かどうか分からない」(2月1日、橋本昌・茨城県知事)。電力会社の連結決算が軒並み最終赤字となる見通しの中、安全優先よりも経済と電力融通に傾きがちな政府の弱腰を、地方は冷静に見抜いている。

大阪市の橋下徹市長は「政府や電力会社へのストレステストも必要」と辛らつだ。橋下市長は31日、国民の不信感は原発の安全性はもとより、政府や電力会社そのものに向いていると指摘。「原発の施設が安全だったとしても、それを扱う側の組織にも問題がある」と述べ、事故に至った原子力行政そのものの見直し抜きに安全が確保できるのか、との疑念をあらわにした。

そもそもIAEAは原子力の商業利用が前提の機関であり、安全優先の立場に立ち切れるのかは大いに疑問だ。また1日には、東京電力が提出した柏崎刈羽原発1、7号機のストレステスト報告書で初歩的な記載ミスが158か所も見つかったことが発覚している。

ストレステスト、そしてIAEAのお墨付きは、もはや運転再稼働に向けたセレモニーの役割さえ果たしていないのだが、どうやらそのことに「原子力ムラ」の住人だけが気付いていないようだ。(オルタナ編集委員=斉藤円華)2012年2月2日

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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