原子力産業の上流、ウラン採掘時にも放射性廃棄物は大量に発生――独ドキュメンタリー映画「イエロー・ケーキ」

旧東ドイツ圏にあるチューリンゲン州とザクセン州のウラン鉱山跡地

ドイツのドキュメンタリー映画「イエロー・ケーキ――クリーンなエネルギーという嘘」は、原子力発電の燃料であるウランの採掘現場に迫った作品だ。

本作では、鉱石からイエロー・ケーキ(ウランの黄色い粉末)を精錬する過程で大量の放射性廃棄物が発生する事実を淡々と映し出す。ヨアヒム・チルナー監督は2005年から5年間、旧東ドイツ時代のウラン鉱山跡地、現在もウランを産出するカナダやナミビアの採掘現場の実態を取材した。

■ ウラン採掘の後処理だけで約7000億円

巨大な放射性廃棄物の山を切り崩すブルドーザー。旧東ドイツ圏にあるチューリンゲン州とザクセン州のウラン鉱山跡地では、ウラン採掘のために掘り出した石を元に戻す、埋め戻し作業を10年以上行っている。

採掘会社ヴィスムート社は、かつてウランを採掘し旧ソビエト連邦に輸出していた。最大12万人が採掘に従事し、世界第3位の生産高を誇り、1990年の閉山までにヒロシマ型原爆32万個分のウランを産出したという。だが、ウランは鉱石1トンからわずか数グラムしか採れないため、大量の放射性廃棄物が残る。

チルナー監督は「ドイツは65億ユーロ(約7000億円)をかけて後処理をしている。原子力エネルギーが人間の手には負えないことを如実に表している」と指摘する。さらに映画では、肺がんを患った元鉱山労働者が登場し、多くの仲間をがんで失った事実を明かす。

■ 危険性は知らされず、学費のために働く女性

一方、ナミビアのロッシング鉱山で巨大トラックを運転し、誇らしげに働く女性従業員の姿が印象的だった。ナミビアでは女性雇用が法制化されているが、そのなかでも鉱山での仕事は、収入も安定し優遇されている。

支配人のマイク・リーチ氏は、「1300人もの大きな雇用を生み、ナミビアの経済に貢献している。2022年まで採掘を続ける」と言う。

南アフリカの通信教育で安全管理を勉強するエスター・ンデヤナイ氏は、学費を稼ぐために2002年からロッシング鉱山で働いている。

「安全な仕事だと思うか」という監督からの問いかけに対して、「わからない。安全だと言いたいが確信はない。毎月必ず体を壊す人がいる」と不安そうな表情を浮かべる。放射線の被爆限度は知らされていないという。

チルナー監督は「大切なのはいかにこの問題が複雑かを知ること。近視眼的にとらえるのではなく、産業そのものがはらんでいるリスクを理解することが必要だ。原子力産業は巨大な富を生むが、負の遺産だけが残る。人の理性で決断を下さなければいけない」と訴える。

監督と対談を行ったブロードキャスターのピーター・バラカン氏は、「福島原発事故は、日本政府、東京電力だけでなく、喜んでだまされた国民の責任も大きい。起こした失敗は事実なので、どう責任を取るか考えなければいけない」と語る。

「イエロー・ケーキ」は、原子力産業の上流を知ることができる貴重な一作だ。(オルタナ編集部=吉田広子)

<上映情報>

「イエロー・ケーキ――クリーンなエネルギーという嘘」
監督:ヨアヒム・テルナー
2010年・ドイツ映画・108分
配給:パンドラ

◇東京都 渋谷アップリンク
4月7日(土)・8日(日)・13日(金) 連日15時から一回上映
4月7日からは毎週土・日・金に上映

◇愛知県 名古屋シネマテーク  2012年4月7日(土)~4月20日(金)
◇石川県 金沢シネモンド 2012年5月予定
◇神奈川県 シネマ・ジャック&ベティ 2012年4月14日(土)~4月27日(金)
◇京都府 京都みなみ会館 2012年4月21日(土)~5月4日(金)
◇山口県 山口情報芸術センター 2012年5月3日(木)5月5日(土)の二日間上映
◇新潟県 新潟市民映画館・シネ・ウインド 2012年5月5日(土)~5月18日(金)
◇福井県 福井メトロ劇場 2012年5月5日(土)~5月18日(金)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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