伊 太陽熱と天然ガスのハイブリッド発電所「アルキメデス」、その実力は

トラフ型集熱装置の並ぶ発電所内(エネル社提供)

イタリアは、チェルノブイリ事故の翌年行われた国民投票で脱原発国となった。だが、長年の電力不足は解消せず、総電力の15%前後を原子力大国フランスなどから輸入してきた。

国民は電力不足を自然エネルギーで補うべきと考え、昨年6月の国民投票で再び原発に異を唱えた。そこで、シチリア島の最新式太陽熱発電施設「アルキメデス」が注目を集めている。

■ 世界初 集熱用の媒体液をオイルから溶解塩にする技術も

イタリア半島の南西に位置するシチリア島。人口508万人、日本の四国地方より一回り大きい面積を持つこの島は、地中海の太陽が降り注ぎ、冬も温暖だ。アルキメデス太陽熱発電所は、島の東南部の古都シラクサ市郊外にある。海に面した発電所には、300メートル四方にわたり半筒状の「トラフ型」と呼ばれる反射鏡が設置されている。

アルキメデス発電所は、大手電力会社エネルが6000万ユーロ(およそ65億円)の事業費と2年の歳月をかけて2010年7月に完成した。出力5000KW、2000世帯分の電力をまかなう。7時間蓄熱可能なため、太陽のない夜間も稼働できるのがメリットだ。また石炭を燃やす同規模の火力発電所に比べて、二酸化炭素排出量を年間3250トン削減できる。

日本にはなじみのない太陽熱発電だが、米国や南欧、中東では普及が進む。太陽熱を反射鏡で集め、その熱で媒体液を高温に熱して、蒸気でタービンを回す。光エネルギーを直流電気に変換する太陽光発電と異なり、太陽熱を蒸気に変えて、火力発電と同じ原理で発電するのだ。

太陽熱発電の草分け的存在である米国カリフォルニア州のソーラー・エナジー・ジェネレイティング・システムは、20年ほど前から9基で27万KWの電力を生み出しており、実績もパワーも申し分ない。

アルキメデスが、米国の発電所と決定的に違うのが発電効率の高さで、集熱に用いる媒体液を既存のオイルから溶解塩(硝酸ナトリウムと硝酸カリウムの水溶液)にしたことだ。これは世界初の技術で、ノーベル物理学賞受賞者でENEA(新技術・エネルギー・環境振興局)の前最高責任者カルロ・ルビア氏が開発した。

摂氏550度まで上昇する溶解塩は、オイル(摂氏400度上昇)に比べて発電効率を4%上げる。さらに、これまでオイルから溶解塩に移して蓄熱していたのを、溶解塩のまま蓄熱することで熱量の消失を15%も抑える。またオイルによる火災の心配も皆無だ。何よりも溶解塩は汚染物質を排出しない。

■ 天然ガス発電設備の発電効率は60%に上る

蓄熱施設の説明をするエネル社ダニエレ・コンソリ氏

クリーンで高い技術を搭載したアルキメデスについて、エネル社アルキメデス技術責任者ダニエレ・コンソリ氏は「あくまでもプロトタイプ(試作品)」と言う。稼動からおよそ2年、データを詳細に取り、有用性を実証した。

今後はコストダウンを目指し「2基目は出力3万KWと大規模にし、またシチリアに作る」と力強く語った。3基目に関しては、国外の建設も予定している。

現在、イタリアの一般電力が1KW時当たり6―10セントに対して、アルキメデスは20セント。 政府が1KW時につき11―27セントで買い取るので、採算は取れている。しかし、エネル社は太陽熱発電の普及に向け、単価を下げて1KW時当たり10セントを目標とする。

一方、隣接する天然ガス発電設備は、排熱も利用できるコンバインド・サイクル方式を採用している。およそ20ヘクタールの敷地に2基、合計75.2万KWの電力を生み出す。小型の原発およそ1機分に相当する。

さらに、硫黄酸化物の排出ゼロ、二酸化炭素も石炭の半分で環境負荷が低い。ガスタービンとその廃熱を用いる蒸気タービンの2カ所で発電するため、発電効率が60%と非常に高い。原発の約30%、通常の火力発電の42%を大きく超える。

アルキメデス発電所では、天然ガスの蒸気タービンに、太陽熱の蒸気も引き込み、ダブルで発電する。天候に左右される太陽エネルギーの弱点を、天然ガス発電でカバーする理想的な発電方法だ。(イタリア・ペルージャ=粉川妙)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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