ゴーストタウン化を食い止めろ―デトロイトで進むアーバン・ファーム

インターンの女性

米国ミシガン州デトロイトは自動車工業の町として知られている。しかし、デトロイト内の治安の悪化や1980年代からの自動車工業の不振に伴い、工場も人も郊外へと流出していった。

デトロイト市の人口は1950年代には185万人であったが2010年には71万人まで減少した。今後も減り続けるだろうと予測されている。

割れた窓、火災で焼け焦げた壁、崩れかかった家。雑草の茂った空き地、手入れされていない廃墟も並ぶ。この荒廃したデトロイトのダウンタウンで「アーバン・ファーム(都市型農業)」と称される農業を営む人たちが増えている。

アーバン・ファームはビルの屋上や施設内で野菜を栽培し、都会で自然と共生すること、新鮮な野菜を供給することを目指している。

デトロイトのように郊外への人口流出が止まらず、ゴーストタウン化していく都市にとってはアーバン・ファームは別の意味も持ち合わせている。空き地を放置せずに農場に変えることで、都市の荒廃を防ぐという役割を期待されているのだ。

また、郊外への人口流出に取り残されたかのように、この都市に住み続けている低所得者たちに、食材を安い価格で提供する意図もある。低所得者は安価でカロリーの高い食品を摂取する傾向が強く、肥満など健康上の問題を抱えやすいことから、手軽に野菜を入手できる環境づくりが重要視されている。

大リーグのタイガース本拠地球場や劇場などが集中するダウンタウンの最も賑やかなエリアから、車でわずか5分ほど離れたところに、都市型農業を営むアース・ワークスという団体がある。

デトロイトが華やかだったころを思わせる大きな教会の裏通りに、一戸建て住宅やビルに混じって、小さな農地が点在している。活動のきっかけは1997年に、教会関係者が野菜を作り始めたことだ。

アース・ワークスのパトリック・クラーチ代表は「農地は教会や別の団体から提供されているものと、地域の人から『空き地が荒廃しないように』と提供されているものがある」と言う。現在、農地として利用しているのは1・5エーカー(約6070平方メートル)だ。

荒れた住宅地

まだ肌寒い4月、事務所から数百メートル離れた農地では、クラーチさんの指示のもと、ボランティア活動に来た10代の若者グループが土を耕していた。ビニールハウス内ではインターンが中心となり、ペッパー類の苗箱を並べる作業中だった。この農地では養蜂も行っており、作業について説明を受けた人たちが、防御服に身を包んで恐る恐る巣箱を設置していた。

郊外からやってきた失業中の青年は「これまでの仕事はデスクワーク中心だったので、体を動かす仕事をしたいと思ってやってきた。昨日から来ているが、楽しんでやっている」と、不慣れな手つきながら、土をふるいにかける作業に懸命だった。

インターンとして働いている女性は、ここで農作業体験をしながら、ボランティアの受け入れや農場管理などの組織運営も学んでいる。将来的には、自分でハーブ類を中心としたアーバン・ファームを運営し、ハーブティーなどを販売していく予定で「今、自分たちの農場の名前を考えるのが楽しい」と言う。

この農地で作業するボランティアのほとんどは農作業の経験がない。「サイクリングの途中で立ち寄る人たちや、日本やカナダから来てくれた人もいる。農作業の経験がない人が多いが、それでも構わない。続けてボランティアに来る必要もない。ここに来る代わりに、自分たちの農場を作ってくれればと思っている」とクラーチさんは語る。

毎週、木曜日には子どもを対象にした農作業体験クラスを開催しているが、受け入れは原則として地域の子どもたちに限る。ほかの地域の農場でも、独自に子どもたちを受け入れて欲しいとの思いからだ。受け入れに興味を示したほかの農場に、ノウハウや子ども向けのプログラムなどを提供している。

収穫した農作物や、それを料理したものは地域へ還元していく。農作物は週に1回、この農場で販売する。アース・ワークスは無料で昼食を提供する食堂を運営していて、その食材としても使用している。

養蜂の様子

2008年のリーマンショックによる不況もあって、デトロイトでのアーバン・ファーム活動はさらに広がりを見せている。経営コンサルタント会社のハンツグループが運営する農場もそのひとつだ。収穫した野菜を学校給食の食材として提供しているグループもある。

5万ドル(約399万円)あれば一戸建て住宅が買える地価の安いデトロイトに農場が増え続け、中流層や富裕層が住む郊外に新しい住宅が並ぶという逆転現象が起きている。

4月には地元のミシガン州立大学が巨額を投資して、デトロイト内で都市の農業に関する研究に本格的に乗り出す計画を明らかにしており、都市における大規模農業に発展する可能性も秘めている。(米ミシガン州=谷口輝世子)

 

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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