サステナブルな美を追求する、パリの「カディ & Co」

「カディ&Co」のオーナーデザイナーであるベス・ニールセン氏

今、世界のハイセンスなエリート層の間で静かな人気の最高級カディ・コレクション「カディ&Co」。そのオーナーデザイナーであるベス・ニールセン氏にインタビューし、その魅力を探ってみた。(パリ=菊地広子)

綿花を摘んで、綿糸を紡ぎ、織り上げるまで100%手作りの「カディ」は、3000年以上の歴史のあるインドの伝統織物で、インド独立後、政府が独占管理し、海外への輸出を原則禁止している。

「カディ&Co」は、インド独立の父マハティラ・ガンディとその象徴であるカディの世界に魅せられたベス・ニールセン氏が10年掛かりで特別に認可を得た。現地で生産している世界唯一のオリジナル・カディコレクション(ストール、ショール、スカーフ、テーブル・リネル、衣服など)を展開している。

現在、コットンは南部(ベンガル地方)の2つの村(各村10~15人)、ウールは北部山岳地帯の7つの村(各村4人)の機織職人が、ニールセン氏のお抱え職人として、最高級カディを一枚一枚手作りして生計を立てている。

■ インド人ならではの不完璧な魅力を生かす

インドの機織職人

「カディの魅力は、手紡ぎ糸ならではの不規則さ」と語るニールセン氏。インド人ならではの不完璧な美を適度に取り入れながら、完璧を求めるヨーロッパや日本の品質基準を満たすハイセンスな商品を作り上げるための苦労は並大抵ではない。

例えば、織物の糸が切れている、穴がある、食事のしみがついている、特殊なカラーを指定しても、職人が勝手に変えてしまう――ということは、インドでは日常茶飯事だ。だが、ニールセン氏は「時々、その不完璧さが人を感動させる素晴らしいものになることがある。それがインドならではの魅力」と語る。

初めは、社会貢献という理想に燃えて、インドの機織職人が民族趣味から脱皮し、ヨーロッパでも売れるデザイン織物を作り、市場を開拓できるようになってもらうために、ワークショップを開催するなどの支援をしてきた。だが、すぐに元に戻ってしまうので、最近は諦め、「彼らができることをして貰うことがベスト」と悟ったそうだ。

35年間にわたって、優秀な機織職人を求めてインド中を歩き渡り、現在は信頼関係が出来上がった職人だけに絞って、家族のような付き合いをしているという。

最近、インドの安い人件費をさらに値切って大量生産をしている西洋の大手企業が増えている。しかし、ニールセン氏は、いつも機織職人の要求通りの報酬を支払い、学校に行けない彼らの子ども(特に女の子)の学費を負担し続けるなど、サステナブルな経済と人間関係を築いている。

■ 肌に優しく、時間と共に美しさを増す商品を作る

「カディ & Co」のウール・コレクション

インド製のカラフルな織物ブランド「エピス」(Epice)のオーナーデザイナーとしても有名なニールセン氏が「カディ&Co」のような冒険に挑んだ理由を、「まず自分で楽しむため(笑)。そして高品質なコットンとウールの肌に優しく、時間が経てば経つほど美しさを増すナチュラルなカラーとデザインの商品を作るため」と説明する。

想像を絶する手間と時間とエネルギーを要する商品の生産数は、年間約3万点。パリの本店「アンポリアム」を中心に、世界の大都市の最も洗練された高級ブティックに限定して販売している。ちなみに、現在同社の最大のマーケットは日本だ。

「カディ&Co」のファンは、ファッションデザイナー、建築家、ジャーナリストなどの有名人をはじめとする、芸術家気質の文化人エリート。創る人のエネルギーと思想が感じられる逸品である。

プロフィール:
ベス・ニールセン氏(デンマーク人、パリ在住)
コペンハーゲン美術大学とストックホルムのベックマンズ・デザインスクール卒。パリに渡り、ファッションモデルを経て、スカンジナビアのプレタポルテ・ブランドのデザイナーとして、1978年に初めて渡印、インドの伝統織物に出合い、天啓を受ける。1999年、デンマーク人デザイナー、ジャン・マッケンハワー氏と共同でインド製織物ブランド「エピス」(Epice)を設立。2010年9月 パリのパレ・ロワイヤルにフラグシップをオープン。2004年、最高級カディ・コレクション・ブランド「カディ&Co」(Khadi & Co)設立。パリのマレー地区の本店「アンポリアム」を中心に、世界の最高級ブティック約150店舗で厳選販売している。

日本の「カディ&Co」商品販売会社:
ベイクルーズ、コム・デ・ギャルソン、インターブリッジ、トゥモローランドユナイティド・アローズほか

◆菊地広子(email: hkikuchi@orange.fr)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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