反ESGを読み解く:米国で先鋭化する「分断と対立」

記事のポイント


  1. 米国では、ESG(環境・社会・ガバナンス)と「反ESG」の論争が続く
  2. だが専門家の多くは「反ESGの動きは一時的に過ぎない」と見る
  3. 反ESGの動きがなぜ米国で拡大するのか、有識者が3つの要因に整理した

米国を中心に、この数年、ESG(環境・社会・ガバナンス)と、「反ESG」の対立論争が続く。しかし、ESG投資に詳しい専門家の多くは、この動きを「一時的なブーム」と捉える。そもそもなぜ、こうした動きは米国で活発なのか。東京大学大学院の御代田有希特任研究員は、米国でのESG投資を巡る対立の背景と理由を「リベラルと保守の対立」、「化石燃料産業の保護」、「ESG投資自体のあいまいさ」の3つに整理した。(オルタナ編集部・北村佳代子)

 

御代田有希(みよだ・ゆき)
東京大学大学院 新領域創成科学研究科サステイナブル社会デザインセンター特任研究員
研究関心は、グローバル・ガバナンス、持続可能な開発目標(SDGs)、ESG投資。慶應義塾大学法学部卒業後に株式会社三菱東京UFJ銀行(現MUFG銀行)にて勤務し、退職後一橋大学国際・公共政策大学院へ進学。その後同大学院法学研究科の博士課程在籍中に、米国農務省およびESG投資を始動させた国際団体である責任投資原則(PRI)にて勤務した。博士号取得後は、一橋大学大学院法学研究科特任講師(ジュニアフェロー)を経て現職。リカレント教育を中心とした東京大学大学院新領域創成科学研究科サステイナブル・ファイナンス・スクールの運営に携わり、学問分野横断的な知見と実務の融合を目指す。

■「ERISA法」の解釈をめぐる「リベラルと保守の対立」

ESG投資は、サステナブル社会を実現しようとする社会的な使命を持つ人々、リスクに敏感な投資家、学界など、さまざまなステークホルダーから関心が寄せられている。

しかし米国では、共和党議員がESG関連の財務リスク管理を妨げてESG投資の成長を阻害しようとするなど、ESGに反対する「反ESG」の動きが今も続く。

東京大学大学院新領域創成科学研究科サステイナブル社会デザインセンターの御代田有希特任研究員は米国で反ESG論争が広がる背景として、3つの要因を挙げる。「リベラルと保守の対立」、「化石燃料産業の保護」、「ESG投資自体のあいまいさ」だ。

御代田氏は、米国での民主党と共和党の党派対立の中で、ESG要因は約30年にわたって意見が揺れ動いてきたと指摘する。

1974年の従業員退職所得保障法(ERISA法)の解釈を巡り、投資判断プロセスにESGの要因を含めるべきかどうかで、推進派の民主党と反対派の共和党との間で対立してきた。

ビル・クリントン(民主党)政権がESGの考慮を推進すれば、ジョージ・W・ブッシュ(共和党)政権では減退する。バラク・オバマ(民主党)政権で再び推進すると、その後、ドナルド・トランプ(共和党)政権下で減退するといった具合だ。

2023年3月には、共和党が、退職年金制度の受託者によるESGを考慮した投資判断を禁止する提案を出すと、ジョー・バイデン(民主党)大統領はそれを拒否するため、初めて大統領拒否権を行使した。

民主党と共和党の意見の相違は、ESGに限らない。LGBTQの権利、中絶の権利、DE&I(多様性、公平性、包摂性)の議論でも真っ二つに割れている。

■株主提案の中でも対立の構図が浮き彫りに
■反ESG法案の提出が急増するも、支持は極めて限定的
■「化石燃料産業の保護」のために反ESGを展開する州

■共和党は、「反トラスト法違反」を主張し保険会社を揺さぶる
■「ESG投資自体の曖昧さ」も反ESGを引き起こす

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #ESG

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