GXに海外から厳しい視線: 水素・アンモニア戦略に2つの課題

記事のポイント


  1. 国際NPOが、日本政府のGX戦略を分析し、提言を報告書にまとめた
  2. 一定の評価を示しながらも、1.5度目標と整合しない部分を指摘した
  3. 水素・アンモニアには2つの課題を提起した

国際NPOクライメイト・ボンド・イニシアティブは、日本政府のGX(グリーントランスフォーメーション)計画を分析し、提言を報告書にまとめた。日本政府による20兆円ものGX経済移行債の発行などは評価するものの、その中身については、1.5度目標に厳密に沿っていないと指摘。特に、水素・アンモニア戦略には2つの課題を提起した。(オルタナ編集部)

国際NPOが「GX」に対する提言をまとめた

クライメイト・ボンド・イニシアチブは、気候変動対策のためのグローバルな資金動員を目的に、気候変動関連金融商品に対する投資家需要の促進や、政府や規制当局への助言などを行う国際NPO団体だ。

同NPOは2023年10月、「日本に向けて信頼できるトランジションファイナンス発展のための提言」と題する報告書を公開した。

報告書は、GXが掲げる基本的な方向性について、「エネルギー、運輸、産業、金融を対象として含み、野心的な目標と行動・投資のガイドラインを提供」していると見る。そして、20兆円のGX経済移行債の発行などについて、「日本政府の明確な政策方針の提示と財政支援は歓迎すべき」とし「国際的リーダーシップを示す」ものと評価する。

その上で、報告書では、1.5度目標へ向けた基本的な要素を強化する必要性を説く。なかでも今後15年間で15兆円の官民投資を行うとした「水素とアンモニア」戦略については、2つの課題を提起した。

■「低炭素だと保証する基準がゆるい」

一つは「低炭素であることを保証する基準」だ。日本が水素基本戦略の中で示す「低炭素水素の基準値」は、国際的に示されている基準値と比較してかなりゆるい。

日本の基準では、原料採掘から水素製造まで全体で3.4kg-CO2/kg-H2の排出原単位基準値を満たすものとしている。しかし国際基準として、同NPOが適用する低炭素水素の基準値は、原料採掘、水素製造から輸送まで含めて1.5 kgCO2/kg-H2だ。

水素とアンモニアを製造するための発電に化石燃料を使用すると、化石燃料を直接使用する場合よりも排出量が増加する点も指摘する。

水素生成とアンモニア製造は非常にエネルギー集約的で、製造と流通の各段階でエネルギーロスが発生する。またアンモニアを燃焼させると、温室効果ガス(GHG)が二酸化炭素に比べて310倍も強力な二酸化窒素が発生するとし、適切な管理・処置が必要だと警鐘を鳴らす。

水素の生成については、「再エネを使用すれば低炭素ではある」としながら、「それでも、強力な間接的GHGであり、CO2の最大8倍の温暖化ポテンシャルを持つ」と論じる。

こうしたことから、報告書では「日本が必要とする大幅かつ迅速な脱炭素化を支えるには、より厳しい適格基準が不可欠だ」と言い切る。

■実装のタイミング(時間軸)も課題

もう一つの大きな課題は「実装のタイミング(時間軸)」だ。

日本が行わなければならない最大の排出削減は2030年までだ。しかし、報告書は、水素基本戦略の低炭素水素基準が2030年以降にしか適用されない点を問題視する。

例えば、現在の計画では、2030年代初頭までに50%以上のアンモニア混焼の商用運転、2050年までにアンモニア専焼(つまり石炭火力発電の完全代替)を目指している。

報告書は、この計画は「大胆」だと評価した一方で、IEA(国際エネルギー機関)が明言する、「(日本を含む)先進国の電力部門に対して2035年までの完全な脱炭素化が必要」との考えと照らす。

その上で、現状の日本の計画は、「1.5℃への整合には野心度が不十分」だと断じた。

「日本が早急に排出量を削減する必要があるにも関わらず、非効率な化石燃料ベースの生産に焦点を当てることは、座礁投資と高い先行排出量についての懸念が生じ」るという。

■水素・アンモニア以外にも幅広く提言

報告書はほかにも、日本に対し、「対策の取られていない(unabated)石炭の段階的廃止の時間軸の設定」、「トランジション(移行)計画の要件の民間部門への拡大」「GXソブリン債がパリ協定で定めた1.5度目標の軌道に厳密に沿うこと」などを提言した。

11月24日には、米グリーン・セントラル・バンキングが、「日本のグリーン・トランジション・ボンドは、炭素回収などの物議を醸す技術を含む」と題する記事を掲載した。

その中で、日本の移行計画は「ネットゼロ基準の厳格な遵守を維持し、化石燃料からクリーンエネルギー主導の構造への移行を促進するならば、世界的な模範となりうる」との、クライメイト・ボンド・イニシアティブのショーン・キドニー最高経営責任者(CEO)の言葉を紹介した。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #脱炭素

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