時代のうねりに抗し、生活史を残す――世界記憶遺産の炭坑絵師 山本作兵衛展

■ 絵画や日記、世界記憶遺産に

山本作兵衛「明治、堀進夫の断層切抜き」。明治時代の人力に頼った掘削作業 (C)Yamamoto Family

山本の炭坑記録画は近代以降の美術の技術体系と隔たったところにあるが、講談本の挿絵の構図と近しい点があり、いわばイコンとなって見る人の想像力をかき立てる。

その膨大かつ緻密な作品群は、ドキュメンタリー(現実)と夢の双方に架橋する大衆の生活史そのものと言えるだろう。日本の近現代美術は「個」の表現に傾注し、社会との接点を巧妙に排除してきた。山本の骨格の太さ、スケール感、作品の重みは、いわば反語となって美術の眠れる可能性を指し示す。

山本の絵画と日記、雑記帳や原稿などの合計697点は世界記憶遺産に登録されている。彼の評価の先鞭を切ったのは、文化と政治の融合をめざしたグループ、サークル村の上野英信、九州きっての前衛芸術・九州派の菊畑茂久馬である。菊畑は美学校の生徒とともに油彩画による模写を試みている。

本展ではそのうち4点を展示。山本の作品は朴訥とした味わいを持つが、一方で合理化の名のもとに多くの人々の生活を奪っていった時代への告発でもある。

「1958年(昭和33年)」と題し、当時の生活風景も会場には再現。山本が本格的に画業に専念し始めたころの空気も体感できる。(文・写真=美術・文化社会批評 アライ=ヒロユキ)

山本作兵衛の愛用の品も展示

 

世界記憶遺産の炭坑絵師 山本作兵衛展

2013年3月16日(土)~5月6日(月・振休)
東京タワー1階 特設会場
〒105-0011 東京都港区芝公園4-2-8 Tel.03-3433-5111
問い合わせ先:読売新聞東京本社 事業開発部 Tel.03-5159-5886

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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