CSRコラム)プロ野球統一球問題を「ソフト・ロー」の観点から考える

ソフト・ローとは、守らないと罰せられるハード・ロー(憲法や法律、条令など)の対義語で、順守しなくても罰せられることはないものの、社会からの批判を浴びることになるルールを指します。

ソフト・ローは具体的にはモラルや宗教上の規範、国民感情、消費者意識があり、アクションとしては批判や抗議の発露、不買運動などがあります。

ソフト・ローの存在は、実は資本主義社会が始まってすぐに知られることになりました。1790年代に、東インド会社がカリブ諸国の奴隷を使用して生産した砂糖をイギリスに輸入していたところ、消費者の不買運動が高まったのです。

その結果、東インド会社はカリブ諸国からの砂糖の輸入を停止したというのが、おそらくはソフト・ローの適用第一号だとされます。

ひるがえって今回の統一球の問題を検証すると、NPBや加藤良三コミッショナーは何らかの法律に違反したわけではありません。

それなのに、世間からこれだけ強い風当たりがあるのは、ソフト・ローに触れたからなのです。それは「コンプライアンス違反」と換言することができます。

本誌で何度も指摘してきたように、「コンプライアンス=法令順守」は誤訳であり、真のコンプライアンスとは、「ステークホルダーとの対話」なのです。

その意味で、今回のプロ野球統一球のケースでは、プロ野球機構側と、ステークホルダーとしての「選手」との対話や意思疎通が欠けていたことは間違いありません。

そのコンプライアンス違反が、現代日本のソフトローに触れ、今の騒動に至ったというのが今回の経緯です。

森 摂(オルタナ代表取締役)

森 摂(オルタナ代表取締役)

株式会社オルタナ 代表取締役。東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在も代表取締役。前オルタナ編集長(2006-2025)。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。武蔵野大学サステナビリティ研究所主任研究員。一般社団法人サステナ経営協会代表理事。日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員。公益財団法人小林製薬青い鳥財団理事

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