記事のポイント
- 欧州委員長は、化学農薬規制(SUR)法案を取り下げると発表した
- 生態系の保護を目的に、2030年までに化学農薬使用の半減を目指していた
- 背景には欧州で相次ぐ農業従事者らの抗議活動がある
欧州委員会のウルスラ・フォン・デア・ライエン委員長は2月6日、「農薬の持続可能な使用に関する規制(SUR)」法案を取り下げることを表明した。この法案は、生態系の保護を目的に、EU全域で2030年までに化学農薬の使用半減を目標に掲げていた。取り下げた背景には、欧州全土に広がる農業従事者らの抗議活動もある。(オルタナ副編集長・北村佳代子)
2022年6月に初めて提出されたSUR法案は、生物多様性の喪失を食い止めることを目的に考案されたものだ。
ミツバチに代表される花粉媒介者の個体数は激減しており、化学農薬の使用は、こうした生態系の衰退のほか、水質汚染、土壌の劣化、害虫への抵抗、慢性疾患の原因との関連が指摘されていることが背景にあった。
本法案は、都市部の緑地、EUの自然保護区「ナチュラ2000」などでの農薬使用の全面的禁止や、低リスクの代替農薬の普及を盛り込み、2030年までに化学農薬の使用半減を目指す野心的な目標を掲げていた。
しかしSURは、当初から賛否が分かれていた。2023年の欧州議会では、賛成299票、反対207票、棄権121票で否決され、加盟国間の政治交渉でも行き詰まりを見せていた。また、農業部門からの激しいロビー活動の対象にもなっていた。
フォン・デア・ライエン委員長は演説の中で、「SURは、化学的な植物保護製品によるリスクの軽減を目的としている。しかし、本提案は二極化の象徴となった。欧州議会では否決されEU理事会でも進展がない。だからこそ、私は本法案の撤回を欧州議会に提案する」と述べた。
本法案の取り下げは、数週間以内にEU委員会の承認を経て最終決定となる。
■環境NPOは憤り
■背景には、農業従事者らの抗議活動も
■EU委員長、前進に向けて対話を重ねる