記事のポイント
- アデコのグループ会社が、サービス業のスコープ3削減に向け実験を始めた
- 移動時の排出量を可視化するスマホAIアプリを社員300人以上が持ち歩く
- 脱炭素への行動変容を促すだけでなく、ウェルビーイング向上の可能性も
アデコグループのAKKODiS(アコーディス)コンサルティング(東京・港)は、サービス業の温室効果ガス(スコープ3)の多くを占める、移動時の排出量削減に向けた実証実験を始めた。マサチューセッツ工科大学(MIT)発のスタートアップが開発したAIアプリを社員300人以上に持たせ、通勤時などの排出量を可視化する。小杉山浩太朗サステナビリティ責任者は「可視化が行動変容を促し、脱炭素のみならず個人のウェルビーイングにつながる」と期待する。(オルタナ副編集長・長濱慎)
■センサー技術で内燃車とEVの識別も可能
スコープ3(※)で一般的に知られているのは、製造業における原材料調達や製品使用時の排出量だ。これがサービス業では従業員の通勤や出張による排出量が多くを占めるようになるが、概算でなく高い精度で把握する方法が求められている。
そこでアコーディスコンサルティングは、個人の移動にともなうCO2排出量を計測するAIアプリを社員300人以上のスマートフォンに搭載。排出量を可視化することで、脱炭素に向けた行動変容を促す実証実験を始めた。
AIアプリはMIT発のスタートアップである米トラム社が開発した。技術の詳細は公表していないが、加速度を計測するセンサー技術によって利用した移動手段を識別し、排出量を割り出す。小杉山浩太朗 アデコグループサステナビリティ責任者は、こう話す。
「内燃車と電気自動車(EV)の違いはもちろん、東京都などが運行する水素燃料電池バスも識別できることを確認した。鉄道についても電車、地下鉄、路面電車と種類を識別し、それぞれの排出量がわかる」
現時点でEVの電源が火力発電か再エネかまでは識別できないが、こうした課題の洗い出しも実証実験の目的だ。移動手段の可視化にはプライバシー侵害のリスクもともなうが、AIアプリは世界でもっとも厳しいデータ保護法とされるEUのGDPR(一般データ保護規則)の基準をクリアした。
※スコープ3は、サプライチェーンなど自社の活動以外で排出される温室効果ガスをいう。これに対してスコープ1は自社の直接排出、スコープ2はエネルギー使用時の間接的な排出(主に電力)を指す。
■低炭素な移動をした日の方が充実している
自らもAIアプリを使う小杉山氏は「スマホでヘルスチェックをするのと同じ感覚で、社員一人ひとりが移動に伴う排出量を把握できるようになれば、脱炭素を『自分ごと化』できる」と期待を込める。すでに、自分自身の行動変容も実感しているという。
「週ごとの排出量を比較できる機能もあり、それらのデータをスマホ上で確認することで『先週はタクシーを使い過ぎたので、今週は会議と移動のスケジュールを見直そう』などと、やりくりをするようになった」
休日もAIアプリを持ち歩く小杉山氏は、こう続ける。
「これまで電車に乗っていたのを、少し早めに出て歩くようになった。思い起こすと、低炭素な移動をした休日の方がそうでない日よりも楽しく過ごせたように感じる。脱炭素への行動変容は、健康面や精神面といった個人のウェルビーイング向上にもつながるのではないか」
アコーディスコンサルティングは5月まで実証実験を行い、近い将来は自社だけでなくサービス業全体のスコープ3削減に寄与するサービスの創出につなげたいという。