記事のポイント
- 菅公学生服は、多様な性のあり方を尊重した制服づくりに力を入れる
- 性自認にかかわらず誰もが「自分らしく」いられる制服へと転換
- 学生生活を謳歌できる環境整備を支援する
「カンコー学生服」ブランドを展開する菅公学生服(岡山市)は、多様な性のあり方を尊重した制服づくりに力を入れる。「詰襟(学ラン)」やセーラー服といった性差が顕著に出るものから、性自認にかかわらず誰もが「自分らしく」いられる制服へと転換。学生生活を謳歌できる環境整備を支援する。(オルタナ副編集長・吉田 広子)
文部科学省は2015年4月、全国の教育委員会や学校に対し、自認する性別の制服や体操着の着用を認めるように通知した。LGBTQなど性的マイノリティーの10代は自殺念慮(自死で人生を終わらせたいと思う気持ち)が強いとされる。
このため同省は教育現場での具体的な配慮事例をまとめ、その一つに学制服を挙げた。
男女差が顕著な学校制服である学ランやセーラー服は、戦後の日本で普及した。男女ともにブレザーが主流になってきたものの、男子はスラックス、女子はスカートが定番だ。
そうしたなか、多様性に配慮した制服づくりに取り組むのが菅公学生服だ。きっかけは文科省の通知。「インクルーシブ(包摂的)・ユニフォーム」を掲げ、「男らしく・女らしく」から「自分らしく」への転換を図った。
(この続きは)
■性差のある制服が中高生の悩みの元に
■カギは「性差が出ないデザイン」と「組み合わせの自由化」
■性差のある制服が中高生の悩みの元に
「自認する性別の制服を着られるとはいえ、戸籍上男子の生徒がセーラー服を着たり、女子生徒が学ランを着たりすることに、周囲の人がどこまで理解を示してくれるかは判らない。当事者の望まない『カミングアウト』につながってしまう恐れもある」
同社の川井正則・カンコー学生工学研究所所長は、多感な時期の若者たちにどう寄り添っていくかに腐心。ヒアリングを重ねた。
「当事者の多くが、中学校入学前に性別に違和を感じている。性差のある制服を着ないといけなくなることが、悩みの元になることもある。性差のある制服を好むかどうかは、トランスジェンダーに限った話ではない。制服の多様性は、どの生徒にとっても必要なのだと実感した」
■「性差が出ないデザインの採用」と「組み合わせの自由化」
生物学的な性差があるなかで、どのように多様性を取り入れるのか。手法としては、大きく分けて「性差が出ないデザインの採用」と「組み合わせの自由化」がある。
例えば、上は性差が出にくいブレザー、下はスラックスとスカートの選択式、色柄は統一するといった具合だ。
女子はウエストとヒップの差があるため、女子体型に合わせたスラックスを開発。見た目の差が出ないようにした。女子スラックスを採用する学校は3千校を超えるまでに菅公学生服なった。男子はウエストとヒップの差が小さいため、ウエストのサイズが合えばスカートをきれいに履けるという。
ただ、川井所長は「制服のデザインだけを変えても、カミングアウトしにくい状況は変わらない。多様性を認め合える環境づくりが必要だ」と語る。そこで同社は、生徒や教職員向けに性の多様性に関する講演会を各地で開く。
インクルーシブな制服づくりは性・ジェンダーだけにとどまらない。障がいがあっても着脱しやすい制服や、宗教に配慮して肌や髪を露出させない制服、肌への刺激が少ない素材の採用など、多様性への配慮は広がりを見せている。
「制服をなくすという考え方もあるが、制服には『平等性』や『経済性』のメリットがある。みんなで同じ制服を着ることの楽しさや安心感もある。『自分らしく』いられる制服はどうあるべきか、研究を続けたい」(川井所長)