「21世紀半ばの夏に北極海の氷がなくなる?」――IPCC第1作業部会報告(上)

■ 「2度未満に抑えることは不可能ではない」

今後の気温予測は、4つのシナリオに基づいて示されました。第4次評価報告書の時に使われたシナリオと違って、新しい「RCP(代表的濃度経路)シナリオ」を採用しています。

これは二酸化炭素がいったん排出されると、生態系や海洋に吸収されない限りずっと大気中に残り続けるガスであるため、過去に排出された量に比例して温暖化を進めてしまうことを背景にしています。

簡単に言えば、過去に排出した二酸化炭素の量と、現在、将来にわたる二酸化炭素の排出を合わせた総量(つまり、大気中の二酸化炭素濃度)が、気温上昇を決めるということです。これによって今後どれだけ大気中に排出するかによって気温上昇のレベルが決まるということが、一般にもより理解しやすい形になりました。

4つ示されたRCPシナリオのうち、一番高い「RCP8.5シナリオ」は、2100年に(1990~2000年ごろと比較して)2.6~4.8度の上昇(2100年を過ぎてもさらに気温上昇する)、一番低い「RCP2.6」シナリオでは、0.3~1.7度の気温上昇を予測しています。

「産業革命前に比べて2度未満」に抑えることができるのは、RCP2.6シナリオだけであることも明確に示されました。

ただそのシナリオを実現させるには、今後の排出量に非常に厳しい限界があります。もし人類が現状レベルに排出を抑えたとしても、今後30年以内にその限界に達してしまうことをシナリオは示しています。そして、排出量が増えれば増えるほど、残された時間は短くなってしまうのです。

速やかに世界の排出量を増加から減少に向かわせ、排出量を急速に減少させていく必要があります。

しかしWWFは、「産業革命前と比べて2度未満の上昇に抑える」のは不可能ではないと考えます。WWFは「2050年に自然エネルギー100%社会」を可能とするエネルギーシナリオを発表しており、2050年にそれを達成することを目指すならば、このシナリオは射程範囲内となります。ですが、そのためには本当に時間がありません。

こうしたIPCC報告書の指摘に、国内では懐疑を唱える声もいまだあります。しかしIPCCの報告書が作られる過程を知ると、そうした懐疑の声の多くが誤解に基づくものであることがわかります。次回は、なぜ国際社会にIPCCが信頼されているのか、その理由についてお話しします。

◆小西雅子(こにし・まさこ)
WWFジャパン自然保護室次長兼気候変動・エネルギープロジェクトリーダー。日本気象予報士会副会長。神戸大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修士課程終了。中部日本放送を経て2005年9月から現職、国連の気候変動会議など温暖化の国際交渉とエネルギー政策提言に従事。著書「地球温暖化の最前線」(岩波書店2009)など。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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