「なぜ世界はIPCCを信頼するのか」――IPCC第1作業部会報告(下)

■ COP19に向けて日本に求められること

11月11日から22日まで、ポーランドのワルシャワで第19回気候変動枠組条約締約国会合が開催されます。そこでは、まさに今回のIPCC第1作業部会報告書を参照しつつ、交渉が行われることになります。

世界の平均気温の上昇を、産業革命前に比べて2度未満に抑えることは、2010年に決まったカンクン合意の中で合意されています。ところが2020年に世界各国が国際約束している削減目標では、すべて達成したとしても、80億トンから130億CO2トンもの削減量が足りず、2度未満に抑えるにははるかに及ばないことがUNEP(国連環境計画)によって指摘されています。

そこで今の国際交渉の焦点は、2020年までの削減目標の引き上げと各国の自主的な温暖化対策にいかに実効力を持たせるか、それに2015年に採択される2020年以降の新枠組みのあり方の二つに集中しています。

前回の「『温暖化は進行していた』――IPCC第1作業部会報告(上)」でお伝えしたように、今回のIPCC報告書は2度未満を達成することが可能なシナリオ(RCP2.6シナリオ)も示していますが、今後世界が排出量を速やかに増加から減少へ向かわせるだけでなく、大幅に削減していかなければ、そのシナリオを達成できないことも明示したのです。2度未満を達成するには本当に時間がありません。

日本は、2020年に1990年比で25%削減するという目標の見直しを発表していますが、世界的に目標の引き上げが求められている中、COP19にどのような目標を再提示するのか、世界が注目しています。

削減率を大幅に引き下げるようなこととなれば、日本が世界全体の排出量削減に寄与しないという表明になるだけではなく、世界がなんとかして2度未満の達成に向けて全体の排出量引き上げを議論している状況に水を差すことにもなりかねません。

このIPCC第1作業部会の報告書は、温暖化の深刻な影響は、私たちの世代ではなく、子どもたちや孫の世代に重くのしかかっていくことを改めて示したものともいえます。2014年の3月には、横浜で、IPCCの第2作業部会による報告書「温暖化の影響」が発表されます。そのホスト国ともなる日本が、その直前のCOP19でどのような温暖化対策を発表するのか、ぜひ世界の温暖化対策に寄与する日本であってほしいと切に願います。

◆小西雅子(こにし・まさこ)
WWFジャパン自然保護室次長兼気候変動・エネルギープロジェクトリーダー。日本気象予報士会副会長。神戸大学卒、ハーバード大学ケネディ行政大学院修士課程終了。中部日本放送を経て2005年9月から現職、国連の気候変動会議など温暖化の国際交渉とエネルギー政策提言に従事。著書「地球温暖化の最前線」(岩波書店2009)など。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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