米ワシントンの「日米友好の桜」、150本超が伐採へ

記事のポイント


  1. 米国立公園局は、ワシントンDCの国立公園内の桜を一部伐採する
  2. その桜は、1912年に「日米友好の象徴」として日本が米国に贈った「荒川の五色桜」だ
  3. 伐採の背景には、気候変動に伴う海面上昇による影響がある

米国立公園局(NPS)はこのほど、ワシントンDCの国立公園内にある桜の一部伐採を発表した。その桜は、日本が1912年に日米両国の平和と親善の象徴として贈った「荒川の五色桜」で、春の国立公園の象徴的存在となっている。しかし、気候変動による海面上昇の影響で、一部の桜の根が朽ち、護岸補強工事とともに伐採されることになった。(オルタナ副編集長・北村佳代子、吉田広子)

2024年、米首都ワシントン中心部に咲く桜
©National Park Service

伐採の対象となるのは、公園内のタイダルベイスン貯水池に立ち並ぶ樹木だ。タイダルベイスン貯水池と、ポトマック川西岸に立ち並ぶ護岸を補強する工事を行うためだ。

NPSの発表によると、約3700本の桜の木のうち、158本を伐採する。工事完了後、274本の桜が植えられる予定だという。費用は護岸工事も含めて、1億1300万ドルを見込む。

NPSは、声明のなかで「老朽化や海面上昇の影響で、護岸は大きな被害を受けている。防潮堤の一部は5フィート(約152cm)も沈下した。護岸工事を行うことで、公園は今後100年間、インフラの故障と海面上昇という差し迫った脅威から、米国を代表する記念碑と日本の桜を確実に守ることができる」と説明する。

「スタンピー(切り株)」の愛称で親しまれた、背の低い桜も、護岸工事の一環で伐採される予定だ。別れを惜しむ声もあり、別の場所への植え替えを求める署名活動も始まった。

工事は5月ころに開始し、2027年までに完了する予定だ。

NPSのマイケル・リッタースト広報部長は、この桜について、「米国にある国際友好の贈り物として、最も古くかつ最もよく知られており、毎年みられる桜の満開は、米国の首都で最も盛大な春の伝統風景の一つだ」とオルタナの取材に対して答えた。

「開花時期の約1 週間だけでも、桜を見るために、市内や米国内外から 100 万人以上の人が訪れる」(リッタースト広報部長)という。

■日本が贈った「荒川の五色桜」

1912年に、日米の平和と親善の象徴として、日本は3020本の桜の苗木を贈った。同年3月27日には、当時のタフト大統領夫人と珍田いは(ちんだいわ)駐米大使夫人による植樹式が行われた。

この時、贈られた桜は、兵庫県のヤマザクラを台木にして、東京の荒川堤の桜から採った枝(穂木)を接木したものだ。

東京・足立区にある荒川堤は、19世紀後半から桜の名所として名高かった。78品種もの桜が植えられ、薄紅色のほか、白、黄、緑、紫など、さまざまな色合いを楽しめることから「荒川の五色桜」と呼ばれた。

その後、荒川堤の桜は、第二次世界大戦や公害の被害で消滅してしまったが、ポトマック河畔の桜は咲き続けた。

1952年、足立区が、五色桜の復活を企図してポトマック河畔の桜の里帰りを米国に働きかけ、8種55本の桜の苗木がアメリカから贈呈され、荒川堤に植えられた。その後1981年にも、さらに35種約3000本の桜が贈られた。その桜は荒川土手をはじめ、区内の学校や公園などさまざまな場所に植えられ、今も見事な花を咲かせ続ける。

現在、荒川の土手に続く約4.4キロメートルに及ぶ桜並木は、「あだち五色桜の散歩みち」と呼ばれる。ポトマック河畔から荒川に里帰りした桜の木々は、毎春、色とりどりの花を咲かせ、桜を通じた日米の110年に及ぶ交流の足跡を物語っている。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #気候変動

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