記事のポイント
- インドネシア人漁師のハディさんは、漁業現場での人権侵害の撲滅を訴える
- 当初は、雇用者の負担が大きく、逆に人員削減を招きかねないとの声もあった
- しかし、半年間で業界の雇用は拡大し、商品価格の上昇も微増にとどまった
日本人が最も食べる果物で、物価の優等生とも呼ばれる「バナナ」。日本で流通するバナナのほとんどは輸入品で、8割がフィリピン産だ。だが、その生産現場では、農薬の空中散布の影響とされる深刻な健康被害が広がっている。アジア太平洋資料センター(PARC、東京・千代田)がその実態を調査した。(シンカ・望月南)
■失明や皮膚の炎症など健康被害が相次ぐ
PARCは、2017年から2020年にかけて、バナナの生産地であるフィリピン・ミンダナオ島で調査を行い、農薬が原因で健康被害を受けたとする住民や労働者の証言を取りまとめた。
PARCの調査報告書「バナナが降らせるフィリピンの『毒の雨』」(2020年3月公表)によると、フィリピン・ラカグ村では、「家畜が死んだ」「失明した」「皮膚が激しい炎症を起こした」「腎機能を失った」「出産異常につながった」といった証言が相次ぐ。
スミフル社をはじめバナナの輸入・販売を行う企業は、バナナ栽培の現場で、バナナの病気の一つであるシガトカ病を防ぐために農薬の空中散布を行っている。
シガトカ病は、バナナの葉にカビが繁殖し、光合成を妨げることで枯らしてしまう病気である。この病気を防ぐためには、葉の全面に防カビ剤による保護膜を作る必要がある。バナナ企業は、防カビ剤を背の高いバナナの上部にある葉にまで効果的に散布するため、小型飛行機で空中散布を行っているという。
農薬は、ある程度の高度から霧吹きのように広がるようにまかれるため、風向きによってバナナ農園以外のところにも飛散してしまう。地域の人びとは、バナナ農園以外に農薬が吹き流されることを「毒の雨」と呼んでいる。
■バナナの大手ブランド3社の農薬の使用を調査
PARCは2019年、日本国内に流通するバナナの大手ブランド3社(スミフル社、ドール社、ユニフルーティ社)取り扱いバナナの農薬スクリーニング調査を行った。本調査は、3社のバナナに対し、どのような農薬を使用した形跡が認められるのか確認することが目的である。
本調査では、3社が取り扱うレーベルのバナナを農民連食品分析センターへ送付し、農薬 329 成分について検出を行った。
スミフル社バナナからは 1 検体当たり平均1.87成分、ドール社バナナからは平均1.12成分が検出された。一方で、ユニフルーティ社バナナからは平均0.15成分しか検出されず、84.6%の検体からは農薬成分が検出されなかった。
農薬成分が多く検出されることが、ずさんな現地オペレーションを証明するものにはならない。だが、安定して残留量を低減させるには、ある程度の管理環境が必要である。3 社の間では、農薬の取り扱いなど管理体制に大きな違いがあることが推察された。
■スミフル社は面会に応じず
PARCによると、スミフル社は、現在までに面会に応じていないという。加えて、スミフル社のウェブサイトには、環境配慮をしていることをアピールするページへの案内が一時掲載されていた。
PARCは、こうした問題を広く発信するためにドキュメンタリー映画「甘いバナナの苦い現実」を制作した。オンラインでストリーミング視聴が可能だ。