ESGは社会を分断させるか

雑誌オルタナ77号:「alternative eyes」第50回

オルタナ本誌77号の第一特集は「米大統領選の行方とESG(環境・社会・ガバナンス)」です。一見、両者は何の関係も無いように見えがちですが、そうではありません。その証左は、「ドナルド・トランプ大統領候補の公約」に見て取れます。(オルタナ編集長=森 摂)

公約の第一は、なんと「急進左翼のESG 投資から米国人を守る」です。あろうことか、ESG を急進左翼と位置付けたのです。

多くの米国人にとって、「ESG」と「急進左翼」に何の関係性もないように思うでしょう。しかし、ESG の「E」(環境)だけ取っても、再生可能エネルギーの拡大を主張し、化石燃料や原子力発電を否定する人たちは、左翼的に映っているのかもしれません。

「ドリル・ベイビー・ドリル(石油は掘って掘りまくれ)」。2008 年、当時のオバマ大統領がメキシコ湾油田事故を受けて海底油田開発を一時凍結したことに反発し、共和党陣営が盛んに使った言葉です。

これが今回、トランプ大統領の選挙活動とともに復活してきたのです。日本と同様、ガソリン代や光熱費高騰への怒りもこの動きを後押ししました。

これまで石油や天然ガス、石炭、原子力産業、自動車業界などで働き、給料をもらってきた人にとって、「脱炭素」の潮流は、本音を言えば「なくなって欲しい」存在なのかもしれません。

反ESG の潮流は、米国だけではありません。2024年6月9日に大勢が判明した欧州議会の選挙(定数720)では、極右や右派が伸長する見通しとなり、EU主導の野心的な脱炭素政策や、移民など人道・人権政策への批判が目立ちました。

これらの攻防を対岸の火事としてみていて良いのでしょうか。三井住友銀行が今年3 月、シティなど米大手4銀行とともに金融業界の自主的ガイドラインである「エクエーター原則」から脱退したのも、反ESGの圧力に屈したからです。今後とも、反ESGのキャンペーンや圧力に日本企業が巻き込まれる可能性は少なくありません。

もしトランプが本当に当選すれば、パリ協定から再度、離脱するのは明らかです。これも彼の公約に盛り込み済みです。2017年1月に大統領に就任した後、同年6月には「パリ協定離脱」を宣言しました。

パリ協定離脱宣言では「2025年までに270万人の雇用を奪い、2040年までにGDPで3兆ドルが失われる」と予測しました。ただし、今のところその兆候は出ていません。

問題はESG の「E」(環境)だけではありません。「S」(社会)でいうと、同性婚やジェンダーマイノリティの問題もあります。

オルタナ73号の第一特集「DEIは競争力の源泉」で詳報した通り、フロリダ州のデサンティス知事は、ウォルト・ディズニー社と激しく対立しました。フロリダ州議会が2022年1 月、小学校で8 歳以下の児童にLGBTQ など性的少数者のことを教えることを禁じる州法を可決し、これにディズニーが猛反発したのです。

翻って見ると、日本では「同性婚を認めない制度は憲法違反である」との訴訟判決が3 つの地裁と札幌高裁で出たものの、いまだに選択的夫婦別姓すら実現していません。

同性婚や性的少数者についての法整備問題は、どこの国でも民主主義における「分断と対立」を引き起こします。外国人労働者や移民に対する反発も同様です。

ESGは分断や対立を引き起こすトリガーになり得るーー。サステナビリティやサステナブル経営を推奨する私たちは、それを知っておくだけでなく、分断や対立を少しでも和らげられるような代替案(オルタナティブ)を常に考えておく必要があると思います。

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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キーワード: #ESG

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