記事のポイント
- 金融庁は「サステナブルファイナンス報告書」を公表した
- サスファイを「持続可能な経済社会を支えるインフラ」と位置付けた
- ただし、意義の浸透が不十分など課題を指摘し、「道半ば」と評価した
金融庁はこのほど、「サステナブルファイナンス報告書」を公表した。報告書では、サステナブルファイナンスを「持続可能な経済社会システムを支えるインフラ」と捉えた。だが、持続可能な社会に向けては、「道半ば」として、意義の浸透やインパクト投資などの課題を指摘した。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)
サステナブルファイナンスの有識者会議(座長:水口 剛 高崎経済大学学長)では、「サステナブルファイナンス」を、「環境・社会課題の改善を通して、経済・社会の成長・持続可能性を高め、併せて機関投資家・個人投資家等にとって、長期的な投融資ポートフォリオの価値を高めるもの」と定義した。
一方で、持続可能な社会に向けては「道半ば」と位置付けた。サステナブルファイナンスの意義の浸透促進、トランジション・ファイナンスやインパクト投資の推進という3つの課題を指摘した。
■意義の浸透、「手触り感のある形」で
「意義の浸透促進」については、アセットオーナーなど機関投資家の取組み状況に差異があり、広く浸透していないと述べた。
一方で、地域での環境改善に資するプロジェクトに投資する債券や、地域で持続的な成長をめざす企業への出資などは、投資効果を想像・実感し易い。「手触り感」を得られ、関心も高いと指摘した。
このため、サステナブルファイナンスの本質的な意義や基本的手法などを、投資家などにも分かりやすく、「手触り感のある形で整理・発信すること」が重要と記した。
「トランジション・ファイナンスの推進」については、トランジション・ファイナンスの考え方や重要性は、わが国の取組みを起点として海外でも認識が浸透しつつあるとした。
一方で、何が信頼性のあるトランジション・ファイナンスなのか、国際的にも多様な議論があるとした。
金融機関が企業の脱炭素化支援のトランジションへの投融資を増やすと、スコープ3排出量(ファイナンスドエミッション)が一時的に増大する問題もある。
金融機関におけるリスク管理や顧客支援としての「移行計画」のあり方、脱炭素への「移行」戦略を金融機関の将来にわたる事業戦略・資本政策などに照らしてどう位置付けるか、議論を具体化すべきと述べた。
■「インパクト投資」には論点整理を求める
「インパクト投資の推進」については、上場・非上場、都市部・地域、ユニコーン・ゼブラ、株式市場・融資など、幅広い市場が存在している。関係者の間でのインパクト投資の捉え方も多様だとした。
官民連携で取り組む論点などをよく整理しながら進めていくことが重要だと記した。社会課題の解決のためには、官民が補完し合い進めていくことが有効なことが多いからだ。
インパクト評価やそれを価値向上につなげる企業戦略のあり方は、官民を通じて大きな課題となっている。上場市場、地域企業など、特性に応じ対象を区分けしながら、議論していくことが重要だ。
その際、インパクトを金銭価値化する「インパクト加重会計」についても、事例や研究を積み重ねていくことが重要と記した。