記事のポイント
- 日本のエネルギー・脱炭素政策は「化石燃料・原子力ありき」が前提に
- これらの産業の利害関係者が政策決定の主導権を握り、経済団体も後押し
- 世界的な脱化石・脱原発の流れに反する政策は、産業の衰退を招きかねない
国のエネルギー・脱炭素政策は「化石燃料や原発ありき」が前提だ。エネルギー基本計画はこれらの産業の利害関係者を中心に議論が進み、GX(グリーントランスフォーメーション)も経団連を筆頭とする推進派の声を色濃く反映している。しかし、世界的な脱化石・脱原発の流れに反する政策は、かえって日本の産業の衰退を招きかねない。(オルタナ副編集長=長濱 慎)
■化石・原発推進派を中心に方針決定
エネルギー基本計画の策定に向けた議論が、本格化している。同計画は国の中長期的なエネルギー政策の指針として、3年ごとに見直しを行う。今回で第7次となり、2050年を見据えた電源構成も議論する。
議論は経済産業大臣の諮問機関である「総合資源エネルギー調査会」の下で、複数の会議体が進める。中でも重要な役割を担うのが、全体的な方針を決める「基本政策分科会」だ。メンバーは以下の16名で、化石燃料や原発に肯定的な顔ぶれが目立つ。
【分科会長】隅 修三・東京海上日動火災保険株式会社 相談役
【委員】
・伊藤 麻美・日本電鍍工業 代表取締役
・遠藤 典子・早稲田大学 研究院教授
・工藤 禎子・三井住友銀行 取締役兼副頭取執行役員
・黒崎 健・京都大学複合原子力科学研究所 所長・教授
・河野 康子・日本消費者協会 理事
・小堀 秀毅・旭化成 取締役会長
・澤田 純・日本電信電話 代表取締役会長
・杉本 達治・福井県知事
・高村 ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター 教授
・武田 洋子・三菱総合研究所 執行役員 兼 研究理事 シンクタンク部門長
・田辺 新一・早稲田大学理工学術院創造理工学部 教授
・寺澤 達也・日本エネルギー経済研究所 理事長
・橋本 英二 ・日本製鉄 代表取締役会長兼CEO
・村上 千里 ・日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会 環境委員会副委員長
・山内 弘隆・一橋大学 名誉教授
■経済3団体が原発・火力を強力に後押し
基本政策分科会は、約2週間に1回のペースで開かれる。7月23日(第59回)は「安定供給の現状と課題・火力の脱炭素化の在り方について」をテーマに、火力発電のアンモニア・水素混焼やCCS(CO2の回収・貯蔵)、LNG(液化天然ガス)の調達を議論した。委員からは、以下のような発言があった。
「アンモニア・水素混焼は、商業運転開始の目標時期を定めることが重要」(小堀委員)、「火力の脱炭素技術は日本の競争力が認められる領域で、産業強化の観点から政策の後押しで早期に確立させる価値がある」(工藤委員)、「アジアに展開していくモデルを意識すべき」(澤田委員)。
「国際的にこういう動きがあるからこうしなさいではなく、日本としてユニークなカーボンニュートラルの方向性を堂々と世界に示すべき」(伊藤委員)と、日本の独自性を強調する声も上がった。
化石燃料の活用ありきで議論が進む中で、村上委員が異議を唱えた。
「石炭火力はアンモニア混焼50%でも、排出対策が取られていないLNG(天然ガス)火力と同レベルにしかならない」、「CCSで回収したCO2の半分は海外での貯留を想定しているが、燃料調達も処理も海外に依存するのはエネルギー供給の自立性を損なわないか」と指摘した上で、村上委員はこう続けた。
「次回は各団体からヒアリングを行うが、化石燃料からの脱却や再エネの拡大を求める企業グループや若者団体からもヒアリングしてほしい」
しかし、8月2日の第60回・基本政策分科会にこれらの団体は呼ばれず、経済3団体を含む5団体が提言を行った。
経団連は「原子力の最大限の活用/水素・アンモニア混焼・専焼の活用」、経済同友会は「活・原子力」、日本商工会議所は「化石新時代・原子力新時代」など、スローガンを記したプレゼン資料とともに化石燃料と原発の必要性を強調した。
唯一、全国消費者団体連絡会がこれらへの依存度低減を求めたのみで、第59回の議論にお墨付きを与える結果となった。
■エネルギー基本計画:偏ったメンバー構成は法律的に問題あり
■GX政策:日本製鉄と経団連が化石・原発産業の声を代弁