記事のポイント
- 「カンヌライオンズ」は、社会を変えるクリエイティブなアイデアを競う場だ
- 広告コミュニケーションの潮流を学ぶ絶好の機会でもある
- 世界のクリエーターはどのような視点で課題解決にアプローチしたのか
「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」は、広告コミュニケーションに留まらず、社会を変える力を持つクリエイティブなアイデアが集まる舞台である。ここでは、さまざまな社会課題への新たなアプローチが披露される。今回は、受賞作を取り上げ、今までの常識を覆す社会課題解決の事例を深掘りしていく。(サステナビリティ・プランナー=伊藤 恵)
■女子サッカーへの偏見をひっくり返した「WoMen’s Football」
フランスの女子サッカーは男子サッカーに比べ、人気が低い。その理由として特に「技術が足りない」という偏見が根強く残っていた。そこで通信会社Orangeは、FIFA女子ワールドカップに合わせて驚きのキャンペーンを展開した。
女子選手のプレーをVFXで合成して男子選手がプレーしているように加工した映像を制作。男子選手のスーパープレーとしてSNSで拡散し、その後、実際は女子選手のプレーであることを明かした。
これにより、女子選手に技術の高さをアピールし、観客の意識を変えるきっかけをつくりだした。動画は、2億回以上再生され、5,000万の「いいね」を獲得した。
フランス広告界史上最も拡散された動画として記録され、女子スポーツの教育ツールとしても活用されている。この施策はFilm Lionsのグランプリなど多くの賞を受賞した。
■トランスジェンダーのためのスキンケア「Transition Body Lotion」
トランスジェンダーの人々は性別変化の過程で、肌の乾燥やくすみ、色素沈着が通常の3倍起こりやすいことがデータで示されている。
しかし、男性用・女性用のボディローションが多く存在する中、「男性と女性の間」という段階に特化した製品はこれまでなかった。
このニーズに応えるため、ユニリーバは2年の研究開発を経て、「Transition Body Lotion」をワセリンブランドから発売した。性別適合手術を受けた後に直面するホルモンバランスの変化による肌のトラブルに対処する設計がなされているという。
「Transition Body Lotion」は、国際トランスジェンダー認知の日である3月31日に発表され、SNS上で100%の好意度を記録。1.58億のインプレッションを獲得するほどの反響を呼び、購入意向は基準を725%上回るなどその影響力を証明した。
トランスジェンダーコミュニティへの理解を深め、社会の前進に寄与するユニリーバの取り組みが評価され、Glass: The Lion for Changeを獲得した。
■デザインの力で進む道を切り拓く「Sightwalks」
点字ブロックは、視覚障がい者の手助けとなるツールとして以前から広く社会に広まっている。しかし、利用者が目的地に辿り着いたのかどうかを知らせる機能を兼ね備えていないという課題が見過ごされていた。
それを解決すべく、ペルーに拠点を置くSOL Cementはオリジナルの点字ブロック「Sightwalks(見える歩道)」を開発した。1本の線がレストラン、2本が銀行、3本が食料品店というように特定の場所を示すことで、目的地に辿り着いたかどうかを他者の助けを借りずに判断できるようなデザインになっている。
より多くの場所で利用できるようにデザインデータを著作権フリーで公開しているという。社会でまだ気づかれていなかった課題をデザインで浮き彫りにした点が評価され、デザイン部門のグランプリを受賞している。