記事のポイント
- 奄美大島がマングースの駆除を進め、9月3日に根絶を宣言した
- マングースは、ハブの駆除を目的に1979年に島外から持ち込まれた
- ところがマングースが在来種の脅威になったので、一転、駆除した
奄美大島がマングースの駆除を進めていたが、9月3日に根絶を宣言した。マングースは、猛毒を持つハブの駆除を目的に1979年に島外から持ち込まれたものだ。マングースの捕食によって、アマミノクロウサギなどの在来種が絶滅の危機に瀕していた。マングースがいなくなった奄美大島では、どのような効果が見られるのか。認定ガイドに話を聞いた。(オルタナ副編集長=北村佳代子)
■マングースが襲ったのはハブではなかった
マングースはもともと南アジアに広く生息する外来種だ。ハブの駆除を目的に1910年に沖縄島に導入された後、1979年頃、奄美大島に約30頭導入された。
しかし当初の想定とは異なり、マングースが捕食したのはハブではなかった。農畜産物にも被害を与えながら、マングースは、アマミノクロウサギやケナガネズミといった奄美大島の固有種を捕食したのだ。
そこで始まったのが、マングースの駆除事業だ。環境省はマングースを特定外来生物に指定し、奄美大島ではマングース撃退のプロ集団「奄美マングースバスターズ」が結成された。
バスターズは島の全域、林の奥に至るまで、約3万個のワナを高い密度で仕掛け、自動撮影カメラとマングース探索犬を駆使しながら、日々駆除活動を続けた。
マングース駆除には、島民の目撃情報も欠かせない。島内のスーパーなどに、「『あっ!マングース⁉』と思ったらご連絡ください」と、マングースの写真を載せたチラシを張り出して告知した。
一時は1万匹いたとされるマングースの姿は、2018年以降目撃されなくなり、今回の根絶宣言に至った。これだけ大きな島で外来種の根絶に成功したのは世界的な成果だ。
一方で、2003年には2000~4800匹に減ったアマミノクロウサギの推定生息数は、2022年には1万~3万4400匹と、約20年で2~17倍に回復した。
■島のガラパゴス度が増し、地域の観光サービスの質も上がる
マングースが減り固有種が回復したことで、「観光サービスの質が確実に上がった」と話すのは、奄美群島認定エコツアーガイドの井上祐輔さんだ。
井上さんの勤めるネイチャーコム合同会社(元祖ナイトツアー)は、島でナイトサファリツアーなどを提供する。
「1990年代は、ナイトサファリツアーで4時間走っても、アマミノクロウサギに会えないこともあり、その際はツアー代金を半額返金していた。今は2時間の枠で、ほぼ毎回、アマミノクロウサギに遭遇できる。統計は取っていないものの、遭遇できない日は年に1、2回あるかどうかだ」(井上さん)
これには、ツアーで訪れる地域に設けられた「夜間の野生動物観察ルール」も奏功している。「時速10キロメートル以下で走行」「水たまりは踏まない」「哺乳類・鳥類は2メートル以上離れて観察」「生き物を探すライトは車につき1本」「大きな音を出さない」などのルールを読んでから入山する。
ルールができる前は、車から降りる際に大きな音を立てたり、アマミノクロウサギへの接近を試みるツアー客もいた。「皆がルールを守ることで、より固有種と遭遇しやすくなり、結果としてツアー客の満足度も上がった」(井上さん)
■ハブは、奄美大島の守護神だった
奄美大島でハブを駆除すると奨励金3000円がもらえるという。しかし、その目的は、人間が直接ハブの被害に遭う可能性を1%でも減らすことだ。
東京大学医科学研究所奄美病害動物研究施設でハブを研究してきた服部正策農学博士は、著書『奄美でハブを40年研究してきました』の中で、ハブを奄美の「守護神」と表現する。
「アマミノクロウサギにとって、長年、共生してきたハブは天敵ではない」(井上さん)
「体長40~50センチのアマミノクロウサギを、ハブはまず呑み込めない。また子ウサギが生まれるのも、外気温が下がってハブの活動が鈍化する11月から12月。襲われる可能性も低い」(同)
アマミノクロウサギは、天敵のほぼいない環境下で進化を続けてきた。多頭出産で知られる一般的なウサギと異なり、繫殖数も年1~2匹と少ない。それゆえ、マングースによって激減した個体数を増やすのに長い年月を必要としたのだ。
ガイド業は仕事柄、山に入って生き物と出会うことも多い。
「マングースは根絶したが、外来種の植物はまだある。特定の外来植物を見かけたら報告し、駆除していこうという動きも始まっている」(井上さん)
バスターズはもちろん、ガイドや地域住民らが、世界自然遺産・奄美大島の生物多様性を守っている。