原田 勝広(明治学院大学教授)
学生を連れて「カンボジアの日本人社会起業家研究ツアー」に出かけた。途上国に移住して頑張る人たちの思いを学生たちに教えたいと思ったからだ。学生は熱心に話を聞いていたから間違いなく多くのものを学んだことと思うが、ソーシャル・ビジネスのことを知っているつもりだった私にも大いに勉強になった。
ソーシャル・ビジネス、あるいはBOPビジネスを考える時、社会的課題に挑戦しながら、どう利益を確保するか、そのビジネスモデルが一番重要だと思っていたが、カンボジアで実感したのは、それ以前の文化の壁をどう超えるかという難題であった。
現地の材料・原料を活用し、現地の人の雇用の機会を確保する。これは、ソーシャル・ビジネスの原点である。それは当り前のことではあるが、これがいかに難しいか。
例えば、シエムレアプの「マダムサチコ」ことアンコールクッキーの小島幸子さんの場合。クッキーの原料のコショウやカシューナッツを仕入れてみてビックリ。小さな小石がいっぱい混じっていたからだ。材料の質以前に、ゴミや石を除去することから始めなければならなかった。カンボジア人を雇ってまたまた驚いたのは清潔に関する考え方の違いである。クッキーの材料を練る板の上に足を乗せる、その上で平気で昼寝をする。雑巾もテーブルをふくものと床をふくものを区別しないから、色を変えて分けた。こうなると習慣・文化の違いだからなかなか大変である。
雇うのは貧しい人から
地元のイグサで財布など小物類を生産している、かものはしプロジェクト(以下、かものはし)では、地元にゴミ箱という概念がなく従業員がゴミをあちこちにポイ捨てすることに頭を抱えたという。それでも、売春被害者をなくすことをミッションとする、かものはしは、最貧困層の女性を優先的に雇用している。村長に相談したり家庭訪問をして一家の収入や家族構成まで考慮して採用を決める。入社後は、無料のランチを提供し、識字教育を実施している。ビジネスの視点からいえば、優秀な人、管理能力のある人、技術を持っている人が必要ではないかと思うが、頑なまでに「貧困削減」を優先させている。ミッションと、それにかける思いがあるからこそ、文化の壁も乗り越えられるのだろう。