記事のポイント
- 政府は、脱炭素と電力の安定供給のため、GX政策で原発推進を掲げる
- 一方で、原子力を学ぶ学生の減少は止まらず、人材不足は深刻だ
- 専門家によると、「大学が原子力人材の供給源になるのは難しい」
政府はGX(グリーントランスフォーメーション)政策で原発回帰を推進する。その一方で、原子力に関連する学科の入学者数は減少が止まらず、現場は深刻な人材不足に陥っている。専門家は大学での原子力教育の難しさを指摘した。GX政策が掲げる原発回帰の難しさが人材面からも浮き彫りになった。(オルタナ編集部=松田大輔)
脱炭素と電力の安定供給のために、政府は2030年度には原子力発電の比率を20〜22%に増やしたい考えだ。実現には人材が必要で、三菱重工業や東芝、富士電機などは採用を増やす計画を立てている。
その一方で、原子力を学ぶ学生の減少が止まらない。原子力白書によると、2022年に原子力関連の学科に入学したのは185人にとどまった。30年前と比べると3分の1程度にまで減少しており、人材不足は深刻だ。
東京大学の谷口武俊名誉教授は「大学が原子力人材の供給源になるのは難しい」と話す。
「研究分野の細分化が進んだことにより、原子力そのものを教えられる教員が少なくなった。1980年代半ばに原子力を学び、原発を支えてきた技術者も、あと数年で次々に引退してしまう」
「原子力で、魅力的な研究が出てきていない。他の分野のほうが面白そうだと感じれば、学生はそちらに流れる。原子力の技術継承は難しい段階にある」
原子力政策に詳しい龍谷大学の大島堅一教授は、「学生が、原子力に対して将来性を描けていないのではないか」と指摘する。
政府のGX政策が原子力の推進を掲げたとしても、実務を担う人材がいなければ実現することはできない。原発回帰への難しさが浮き彫りになっている。