ウイグル人権問題に対抗する米ブランド、中国からの仕打ちに

記事のポイント


  1. 新疆ウイグル自治区からの調達を停止したことで、企業が中国の仕打ちに遭っている
  2. 調達を止めたのはカルバン・クラインとトミー・ヒルフィガーの親会社だ
  3. 中国・商務部は同社が「差別的な措置」を取ったとして、調査を行うと公表した

カルバン・クラインとトミー・ヒルフィガーの親会社である米PVHは、中国・新疆ウイグル自治区からの綿花等の調達を停止した。新疆ウイグル自治区に関しては、国連が、ウイグル族に対する強制労働など、人権侵害を報告している。中国・商務部は9月24日、PVHの対応を「差別的な措置」だとして、調査を行うと発表した。(オルタナ副編集長=北村佳代子)

新疆ウイグル自治区の人権問題に対処する企業に、中国政府が仕打ち

中国商務部は9月24日、米アパレル大手のPVHが新疆ウイグル自治区の製品に「差別的な措置」を取ったとして、調査を行うことを公告した。

その法的根拠は、中国政府が2020年9月に施行した、通称「信頼できない企業リスト」規定(中国語名:商務部令2020第4号不可靠実体清単規定)だ。

PVHは、2020年7月に、新疆ウイグル自治区からの綿花や衣料品の調達を12カ月以内に停止することを公表していた。

今回の調査は、新疆ウイグル自治区からの輸入取り止めを理由に、中国政府が外国企業に対して初めて調査を行使した事例だ。同地域の製品を敬遠する企業を、中国政府として容認しないという姿勢を明らかにした形だ。

「この種の調査は初めてだ。あらゆるセクターの企業が、この調査の意味するところを再評価する必要がある。多くの企業がより高いリスクを感じている」と、在中国米国商工会議所のショーン・スタイン会頭は米ニューヨーク・タイムズ紙にコメントした。

在中EU商工会議所は「欧州企業はますます岩と岩の間に挟まれている」と声明を出した。

「新疆ウイグル自治区での事業を停止したり、同地域からの調達を中止したりすれば、中国の政府と消費者の両方から厳しい反発を受けかねない。一方で、そこから手を引かなければ、自国や他のグローバル市場から悪影響を受けるリスクもある」(在中EU商工会議所)

PVHが中国の法律に違反していると判断された場合、罰金に加え、PVH社員の渡航制限、または同社の中国からの輸出停止などの罰則が科せられる可能性がある。

PVHは、中国商務部の発表に対し、「当社は事業を展開するすべての国・地域の関連法規を厳格に遵守している」とコメントした。

■欧米は、強制労働に関与した製品は輸入しない

中国・新疆ウイグル自治区に関しては、国連人権高等弁務官事務所が2022年8月、重大な人権侵害が行われていると指摘する報告書を公表した。

報告書によると、テロ対策の名目で、ウイグル人やイスラム教徒の少数民族に対して行われている、強制労働、集団逮捕、再教育キャンプへの監禁に加え、拷問や強制不妊といった重大な人権侵害が行われているという。

(参考)国連報告書が公表したウイグル人虐待の実態とは

米国では国連報告書に先立つ2022年6月に、新疆ウイグル自治区からの輸入品を原則禁止する「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」を施行した。

中国国営農場などで栽培される新疆綿やトマトを微量でも含む作物の輸入も禁止しており、輸入企業は、強制労働に加担していないことを証明しない限り米国に輸入できない。

欧州では2024年3月、強制労働により製造された製品のEU域内での流通、EU域外への輸出を禁止する規則案に政治合意した。この規則も、新疆ウイグル自治区での人権侵害を念頭にしたものだ。

カナダも2024年、強制労働により製造された製品の輸入を禁止する法律を導入した。

H&Mやナイキはが中国消費者から反発に
■アパレルだけではない新疆ウイグル自治区の人権問題
■合弁撤退の認可も下りない
■企業の中国離れを後押しする要因にも

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北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #ビジネスと人権

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