記事のポイント
①国連人権高等弁務官事務所が中国・新疆ウイグル自治区の人権問題に関する報告書を公表
②テロ対策の名目で、ウイグル人やイスラム教徒の少数民族に対し、拷問や強制不妊といった重大な人権侵害が行われていると指摘した
③インタビューを実施した元被拘禁者の3分の2は、施設または移送中に拷問や虐待を受けたと主張
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は8月31日、中国・新疆ウイグル自治区の人権問題に関する報告書を公表。テロ対策の名目で、ウイグル人やイスラム教徒の少数民族に対し、拷問や強制不妊といった重大な人権侵害が行われていると指摘した。中国政府は否定しているものの、OHCHRは元被拘禁者にインタビューし、その実態を報告書で明かしている。(オルタナ副編集長=吉田広子)
報告書はもともと、2021年末から22年初めにかけて公表される予定だった。中国政府の圧力で公表が遅れたとみられ、バチェレ国連人権高等弁務官が退官する直前に発表された。
同報告書では、「職業訓練施設」と呼ばれる強制収容所に拘束されていた26人にインタビューした内容をまとめている。元被拘禁者の3分の2は、施設または移送中に拷問や虐待を受けたと主張する。
例えば、「タイガーチェア」と呼ばれる拘束用のイスに縛り付けられた状態で電気警棒で殴られたり、水を掛けられながら尋問を受けたり、独房で小さなイスに座り続けさせられたりしたという。監禁されている間、足枷を付けられた人も複数いた。
部屋では電気が一晩中付いて眠れなかったり、ウイグル語など自分たちの言葉で話せなかったり、日常的に監視されたりした状態が続いていた。
女性は警備員などから性的暴力を受けていたほか、中絶を強要されたり、家族計画政策に違反した場合は投獄など厳しい処罰が下されたりするリスクについて証言した。
さらにほとんどの元被拘禁者が、何らかの注射や薬が定期的に投与され、血液サンプルが採取されていたという。
インタビューを受けたうちの一人は「最悪なのは、いつ釈放されるか分からなかったこと」と話している。こうした施設で起きたことに関して、口外は禁止された。
報告書では、インタビュー以外にも、各種資料や調査をもとに、2017年ころから拷問や虐待、強制避妊など、重大な人権侵害が起きているとまとめた。中国政府に対して、拘束しているウイグル人や少数民族の人たちの解放、行方不明者の所在を明らかにすること、人種差別的な政策を撤廃することなどを求めている。
日本ウイグル協会副会長のレテプ・アフメットさんは、「国連として初めて人権侵害を認めたことに対しては一定の評価をする。一刻も早く国連主導で人々の解放を進めるとともに、行方不明になっている人の所在を明らかにしてほしい」と訴える。
アフメットさんは2002年に東京大学大学院に留学し、その後、日本で就職。ウイグルの家族や友人とは2017年夏以降、連絡が取れていないという。家族が人質に取られ、過去に中国当局からスパイ活動を要求されたことも打ち明ける。
「すでに複数の国が『ジェノサイド(大量虐殺)』だと認めている。国連は実態を知りながらも、まともに調査してこなかったことは責任の放棄ともいえる。これまで犠牲になった人たちのためにも、全容を明らかにして、責任を追及してほしい」(アフメットさん)
新彊ウイグル問題は企業にとっても無視できない状況だ。オーストラリア戦略政策研究所(ASPI)は2020年3月、強制収容所に入れられたウイグル人が、自治区を含む中国全土の工場に移送され、強制労働を強いられている実態を報告書にまとめた。工場と取引のある企業は、日本企業14社を含めて82社に上る。
欧州を中心に人権デューディリジェンス(DD)の義務化が進み、日本でも間もなく人権DDに関するガイドラインが策定される予定だ。「ビジネスと人権」の重要性が高まっている。