[サプライチェーン]製鉄所火災事故と工場内サプライチェーン

上原修
上原 修(特定非営利活動法人日本サプライマネジメント協会理事長)

新日鉄住金名古屋製鉄所で9月3日、コークス炉付近の石炭塔が炎上し15人が負傷する事故が起きた。今年5月にも東京都町田市の金属加工会社でマグネシウムへの引火による大規模な火災が発生、ここ数年、工場の火災・爆発事故が相次いでいる。

今回の事故を考える時、事業所または工場の管理職の役割の変化に気が付く人も多いであろう。経験者ならわかるが本部から転勤する工場管理職(技術系;課長レベル)は現場研修を終えた社員が本部で経営企画や生産管理、生産技術の職務を学んだ後に、昇格して現場の課長で再赴任することがある。

しかしながら、管理職としての工場や事業所の任務は本部で想像していたものよりもマイナス面で非常に過酷、いや苛酷である。本来の管理職としての任務である事業所全体の経営計画、またマネジメント全体を考える時間が限られ、8時間の通常勤務時間の大半は様々な会議に忙殺される。

この種の会議には長期経営とかけ離れた短期、目先の人事管理や安全教育などが圧倒的に会議時間を占める。また会議と言っても確認事項が多く欧米流の情報共有に近いものがわざわざ一堂に会して顔を合わせる業態が多い。

今回は工場の事故と工場内の物流について考えてみたい。

1.コストを意識し過ぎ

製造現場は乾いたぞうきんを絞るくらいにコストを削減していることを頻繁に聞く。つまり、本部や本社の連中は堂々と残業手当をもらい冷暖房の効いた心地よい執務室でゆったりとした業務をしている、と揶揄する現場サイドの面々。自分たち現場は生産効率を上げるために日々必死になってコストを抑えている、と言いたそうだ。

また本部から押し付けられた原価改善や原価低減は工場の最優先課題のようにみられ工場長の力量や昇格はコストで決まるとさえ言われる。と言うことになれば、生産工場内での安全や衛生管理が優先課題から落とされるかも知れない。ヒト・モノ・カネの内、人を減らせば、社員を派遣に替えれば、必須の物品や資材を倹約すれば、諸経費を削減すれば、全体のコストが下がると考えるのは当然で、工場長以下多くの管理職は俄然、コストに意識が向く。これはこれで間違ってはいない。

但し、経営というものは、多くの人が携わっているのに意味があり、モノづくり工場や製作現場では時にコストよりも納期や品質が優先されることがある。常に全て同じようにできるはずがなく、役割分担と機能責任を忘れるべきではない。製造のQCDは基本であるが、メリハリもつけたいものだ。

真ん中の「C」コストは経営者としては意識すべきだが全従業員に意識付けするのは難しい。しかし全社員に「Q」品質に焦点を合わせることはできるはずだ。工場で作られる製品の品質のみならず工場施設の品質や労働者の品格、サプライヤーや物流業者の品質・考え方も重視すべきだ。

一時期流行ったVAはコストと言わずに価値(バリュー)と言っている。顧客はコストや表面価格では買わずその製品の価値を買うからだ。「D」出荷納期も重要であるが、これは工場では生産リードタイムと置き換えられる。リードタイムを短くすることは”Time-to-Market”(上市速度)の短縮にも繋がるし、また利益を産む源泉なのだ。要するにコストの優先度をどのレベルに置くかが問題となる。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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