3.構内での役割分担
さて今回の爆発事故に戻ると、冒頭に述べたように工場の管理職が本来の職務を怠ったのではないかと勘繰られても仕方がない。
工場には本部と同じくミニチュア版の組織体系がある。事務部門と技術部門に大きく分けても、管理職の期待される職務は異なるはずだが、一概にそうとは言えない事実がある。皆同じように「安全第一」「災害防止」「衛生管理」を唱えている。
全員がジェネラリストになりたがっているからでもないだろうが、同製鉄所では一体誰が構内物流をモニターしていたのか、前述した指揮官、司令塔としての役割である。コストばかりに気を取られ安全、衛生に疎かったとは第三者として決して言うつもりはないが、物流やサプライチェーンのスペシャリストが時間割どおり役割分担し俯瞰していたかどうか。
恐らく答えは、新日鉄住金の酒本義嗣・名古屋製鉄所長(工場長、事業所長)がすべて見ています、と言うことだろう。しかし、この人はジェネラリストの道を歩む人材で本来のスペシャリストではない。勿論、マスコミには工場責任者が最初に詫びるが、再発防止にはスペシャリストが必要で構内物流に熟知した人材が本来の職務を果たすべきである。あるいは、人件費削減というコスト意識にとらわれ過ぎて人手不足から監視する体制が不完全だったか。
自動車顧客向けの鋼板品質は100%規格をクリアし、また出荷納期も寸分も遅れることは許されない現状下で、工場の責務の優先順位から言えば、コストが安全性に勝っていたと見られても不思議ではない。報道では、新日鉄住金の進藤社長は爆発事故で9月3日に操業停止した名古屋製鉄所を早期に操業を再開したい、それが無理なら他の製鉄所から遣り繰りし、全社挙げて鋼材出荷供給維持に努力すると述べている。
また事故発生時点で5日分としていた鋼材在庫は半月分あることが確認できたため、直ちに混乱は生じないとの認識を示したと言うが、5日と15日では大きな差である。在庫管理は主に物流部門の役割であり、全うな役割分担ができていたのか。顧客への販売物流の視点で在庫日数がこれだけ違うのは正に驚きである。
もう少し詳しく見てみよう。上図は一般的な製鉄所の2大工程を表したものだが、火災が起きたのは製銑工程のコークス炉付近の石炭塔という場所である。
コークスは石炭を炉に入れて空気が入らないように約1200度もの高温で乾留してできる固体。石炭をコークスに加工することによって石炭から酸素や水素がとれて炭素が主成分となるので石炭よりも燃焼効率の高い燃料となる。完成したコークスは高炉に運ばれ鉄鉱石と混ぜて鉄分を取り出す「還元剤」や熱源として使われる。今回爆発が起きたのはコークスの原材料となる石炭を蓄えておく場所。
広報部によると、爆発は第1コークス炉の石炭貯蔵施設の石炭タワーで起きた。その後、第3コークス炉へ通じる石炭を運ぶためのベルトコンベヤーに延焼したとの説明をしている。つい最近の5月には石炭を運ぶベルトコンベヤーで火災が起きている。そもそも石炭は大型船からクレーンで降ろされ石炭置場からコークス炉に運ばれる。
このサプライチェーンは製鉄所における入口で最初の段階であるが故に実は最も重要なステップなのである。今時のサプライチェーンという表現を使う以前から購買物流の言葉は有り原材料のインプットから最終製品のアウトプットまでをマネージすることは謂わば生産管理者の基本である。そしてもっと言うなら専門家やエキスパートが目を光らせるべき機能であり役割なのだ。