洗剤を使わないコインランドリー、DXで環境負荷も減らす

記事のポイント


  1. wash-plusは「洗剤を使わないコインランドリー」を全国47店舗に展開する
  2. アトピーに悩む人も利用できるように、アルカリイオン電解水を用いた
  3. デジタル化で利便性を高めるとともに、省エネや防犯対策にも取り組む

「洗剤を使わないコインランドリー」を全国47店舗で展開するwash-plus(ウォッシュプラス、千葉県浦安市)。同社は2013年、アトピーに悩む人も利用できるように、アルカリイオン電解水を使用した洗濯技術を開発した。同時に、専用のスマホアプリの開発など、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進め、ユーザーの利便性と環境負荷低減を両立する。高梨健太郎社長と広報室の大田紀子さんに話を聞いた。(オルタナ副編集長=吉田広子)

wash-plusの高梨健太郎社長、「wash+」は「サステナブル★セレクション2024」の三つ星に選出された=2024年10月、都内で 写真:廣瀬真也
wash-plusの高梨健太郎社長、「wash+」は「サステナブル★セレクション2024」の三つ星に選出された=2024年10月、都内で 写真:廣瀬真也

※wash-plusのコインランドリー「wash+」は、オルタナとサステナ経営協会が共催する「サステナブル★セレクション2024」の三つ星に選ばれました。次回の一つ星エントリーは、2025年1月14日まで受け付け中です。エントリーフォームはこちら
「サステナブル★セレクション」とは、サステナブル(持続可能)な理念と手法で開発された製品・サービスを選定し推奨する仕組みです。

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■ 誰でも安心して使えるコインランドリーを

「wash+」は節水効果も高い(写真は「リッチモンドホテル横浜馬車道」)

――洗剤を使わないコインランドリー「wash+(ウォッシュプラス)」は、アルカリイオン電解水を使用しています。どのように汚れが落ちるのでしょうか。

大田:アルカリイオン電解水には、「石けん効果」「浸透・膨潤効果」「剥離効果」「乳化・分散効果」があります。アルカリイオン電解水が、油脂やたんぱく質などの汚れに素早く浸透し、汚れを分解して、物体から汚れを剥離させます。シンプルな仕組みですが、洗剤と変わらない洗浄力があります。

洗剤を使わないことで、節水にもつながります。一般的なコインランドリーは、洗濯物に残った洗剤を落とすために「すすぎ」の工程が2回あります。ウォッシュプラスは、洗剤を使わないので、すすぎが1回で済みます。洗濯工程も含めて、3分の1以上の水を節水できるのです。

最近では、掃除用品として、アルカリイオン電解水は一般的になりましたが、コインランドリーに応用するのは、当時は前例がないことでした。

――高梨社長は、2011年に発生した東日本大震災がきっかけで、「人の役に立つ」新たなビジネスを立ち上げたいと考えられたそうですね。家業の不動産事業との親和性やニーズの大きさから、コインランドリー事業に決めたそうですが、なぜアルカリイオン電解水を使うことにしたのでしょうか。

高梨:当時、長女が1歳で、妻から「入浴後は保湿クリームを塗るように」と言われていました。それをさぼっていたのがばれて、注意されたのです。

話を聞くと、アトピー性皮膚炎は後天的な要因でも発症することや、子どものアトピーで悩んでいる人がたくさんいることを知りました。洗濯にも気を使い、粉石けんで洗濯するのが定番だと言います。こうした困りごとを解決したいと考えました。

そこで、はじめは粉石けんのコインランドリーを検討しました。ただ、コインランドリーは液体洗剤が主流で、粉石けんを使える機械がありませんでした。しかも、粉石けんは、洗濯槽に残りやすく、カビが生えやすいのです。

どうすればみんなが安心してコインランドリーを使えるのか。ほかのコインランドリーと差別化して、付加価値を付けられるのか――。悩むなかで、思い出したのが、ある施設で見かけた「水で油が落ちる」と書かれたアルカリイオン電解水のポスターでした。

「水で油が落ちるのであれば、洗剤が要らなくなるのではないか」。そう考え、早速、製造元に話を聞きに行きました。もともと、そのアルカリイオン電解水は、鉄に付いた機械油を落とすために工業用に開発したということでした。

そこで20リットル分購入して、コインランドリー用に改良できないか、実験を始めました。9カ月ほどかかったと思いますが、業務用クリーニング機器専門メーカーの山本製作所(広島県尾道市)の協力を得て、アルカリイオン電解水の洗濯技術を開発しました。

そうして2013年6月、浦安市内にウォッシュプラスのコインランドリー1号店を開きました。現在は、直営22店舗、フランチャイズ26店舗を展開しています。

■ デジタル化が洗濯物の放置や盗難予防にも

アプリで混雑状況を確認し、終了通知を受け取ることができる

――2017年にはスマートフォンアプリ「smart laundry(スマートランドリー)」を開発しました。なぜコインランドリーのデジタル化を進めているのでしょうか。

高梨:コインランドリーは需要が急増している一方で、さまざまな問題を抱えています。

24時間営業している店舗は多いですが、店内にお客さんがいるのを見たことありますか。おそらく週末の午前中など、混む時間帯が決まっていると思います。稼働率は全国平均で1割以下です。

一方で、洗濯物の放置の問題があります。コインランドリーは、洗濯機のシェアサービスといえます。シェアカーであれば、車が返却された後、人が乗り続けていることはありません。しかし、コインランドリーの場合、前の人の洗濯物が残っていることがよくあります。

放置されている間も、機械は電気を消費しています。乾燥が終わった後にそのまま置いておくと、中心部に熱が溜まって、火事になることがあるのです。ですから、今のコインランドリーは、熱を逃すために、定期的に回るようになっています。

スマホアプリのスマートランドリーでは、ユーザーは混雑状況を確認できるほか、終了通知が届くので待ち時間を有効に使えます。飛行機のマイレージのように、ランクアップの仕組みがあり、上位のステイタスになると、予約機能が使えるようになります。洗濯や乾燥の終了後、3分以内に引き取ると、ポイントが倍たまるというインセンティブもあります。

放置時間を減らして回転率を上げることで、ユーザーの利便性が向上するとともに、オーナーにとっても経済的なメリットが生まれます。もちろん省エネにもつながります。

――インセンティブを与えることで、ユーザーの行動変容を促しているのですね。ウォッシュプラスでは、早くからキャッシュレス決済を導入していますが、その理由は。

高梨:キャッシュレス化は、防犯対策にも有効です。最近は、コインランドリー強盗が増え、実は当社の店舗も4回、狙われました。

コインランドリーは24時間営業が多いため、常にお客様が店舗にいる可能性があります。安全面を考慮し、現金の入った両替機を設置しないことが重要なのです。

環境面でも、現金を銀行に預けるための車の移動を減らせます。さらに、直営21店舗のうち15店舗で電力を太陽光発電に切り替えました。今後も店舗運営に伴う環境負荷の削減に努めていきたいと考えています。

――ホテルや旅館のランドリールームで、ウォッシュプラスの導入が増えているそうですが、どのような点が評価されているのでしょうか。

大田:宿泊施設向けのランドリーサービス「wash+ Comfort(ウォッシュプラス コンフォート)」を展開していますが、近年は、SDGs(持続可能な開発目標)への貢献を目指す宿泊施設が増えています。

ウォッシュプラスは洗剤を使用しないので、アレルギー体質の方でも安心して使えるほか、節水や排水汚染の防止にも寄与できる点が評価されていると感じます。

また、オリジナルのカーボンブラックデザインの外装は、ホテルの空間に調和します。ウォッシュプラスは多言語対応も可能で、キャッシュレスですので、外国人観光客のニーズにも応えられると思います。

■ コインランドリーを地域インフラに

インフラとして地域への貢献を目指す(写真は「wash+えんべつ富士見店」)

――2024年8月には、人口約2300人の北海道遠別町に出店されました。利用者数も限られると思いますが、なぜ出店を決めたのですか。

高梨:遠別町にはコインランドリーがなく、住民は洗濯のために40km離れた場所まで行かなければなりませんでした。町長から相談を受け、建物の家賃と水道代を町が負担し、内装費は当社が負担する形で、道の駅「えんべつ富士見」の敷地内に出店することになりました。

完全キャッシュレス化を図りつつも、高齢者も使いやすいプリペイドカードを導入しました。プリペイドカードは近隣のコンビニや道の駅の売店でも購入可能です。

コインランドリーは、かつて地域社会のインフラでした。現在は、各家庭に洗濯機が普及していますが、布団などの大物洗濯の需要は各地にありますし、交流の拠点にもなります。遠別町で、地域インフラとしての可能性を再確認できましたので、他地域にも広げ、地域に貢献していきたいです。

――今後の展望について教えてください。

大田:「洗剤を使わない」という差別化要因をさらに強化し、私たち自身も知識を常にブラッシュアップしながら、より大きな社会課題の解決を目指していきます。多くの方にウォッシュプラスを知っていただける機会を積極的につくり、必要な方にお届けしていきたいと考えています。

高梨:私たちにとって社会貢献は、事業に欠かせない要素です。

世界的に水問題は深刻化しています。日本は水資源に恵まれていますが、災害時には断水が発生するリスクがあります。私たちは数年前から排水レス店舗の実証実験を進めており、2026年春の本格稼働を目指しています。このシステムは、排水処理を100%再利用する循環型のものです。

排水しないということは、マイクロプラスチックの海洋流出を抑制することでもあります。日本国内のみならず、海外展開も視野に入れながら、持続可能な社会の実現に向けて、引き続き努力を重ねていきたいと思います。

※wash-plus社のコインランドリー「wash+」は、オルタナとサステナ経営協会が共催する「サステナブル★セレクション2024」の三つ星に選ばれました。次回の一つ星エントリーは、1月14日まで受け付け中です。

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yoshida

吉田 広子(オルタナ副編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。執筆記事一覧

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キーワード: #サステナビリティ

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