
「レズビアン(L)タレント」牧村朝子さんの初著作『百合のリアル』(星海社新書)の重版が決定するほど、話題を呼んでいる。牧村さんは2012年、日本で知り合ったフランス人の恋人と渡仏した。本書は、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)だけでなく、「非LGBT」からの共感も集めている。(ライター・遠藤一)
本の内容は、美人レズビアン講師が主催する架空の恋愛セミナーに、異性愛者の男女など4人が集まった設定。多様なセクシュアリティについての知識を深めたり、どうモテたいかなど自分自身の問題を話し合ったりしながら、話は進む。なかには、牧村さんのエッセイも盛り込まれている。
牧村さんは、「ゲイ、女、社畜、DQN(ドキュン)、移民――。私たちは自分や他人を言葉で切り分け、分かったような気になってしまう。でも切り分ける前にあるものに、互いにもっと向かい合えないか」と言う。
牧村さんは2012年、日本で知り合ったフランス人の恋人と渡仏。「日本では社会的に他人なので、どちらかが交通事故にあっても、親族の許可無しには、もう片方が治療室に入ることもできない。想像すると、日本に2人で住むのは辛すぎた」と説明する。
フランスにはPACSという、共同生活している2人に同性同士であっても公式な地位を与える制度がある。配偶者の社会保険に入れたり、相続権や相続税も優遇されたりする。
2013年、共同で養子を持てるなどさらに権利が広がる同性婚が制度化され、牧村さんは結婚した。
「パリは東京より暮らしやすい。同性カップルのファッション広告なども普通にあり、『セクシュアルマイノリティ』は、マイノリテイではない空気がある」
牧村さんは少女時代、自分のセクシュアリティを受け入れられなかった。小学校ではレズビアンと噂が立ち、友達に避けられた。中学高校では男性を受け入れることを期待される視線が辛く、男装で過ごした。
「セクシュアリティに関する知識は『不謹慎』でも『いやらしい』ことでもない。むしろセクシュアリティに関する知識がなかったから、十代の私は望まない言葉づかいやふるまいをし、自己否定を重ねていた。だからこそ『同性愛について』の本ではなく、『同性愛とか異性愛とかカテゴリ分けすることそのものについて』を考えるための本を書きたいと思った」
ある女性読者はこう感想を寄せる。
「自律神経障害、軽度の男性恐怖――。私につけられる名前は多い。けど他人の理解も進まず、苦しみも変わらない。名づけずありのままを受け入れる方が楽だと気づいたが『それでいいのだ』とこの本は言ってくれた」