IUCN(国際自然保護連合)が定義する「絶滅のおそれのある野生生物のリスト」には、2014年11月時点で約2万2千種が登録されている。生物多様性の確保は喫緊の事項だ。本コラムでは、味の素バードサンクチュアリ設立にも関わった、現カルピス 人事・総務部の坂本優氏が、身近な動物を切り口に生物多様性、広くは動物と人との関わりについて語る。(カルピス株式会社 人事・総務部=坂本 優)
ウズラは身近だが不思議な鳥である。古代エジプトの壁画にも描かれているほど、古くから家禽化され、世界に広まるとともに、各地で野生化している。日本の野生ウズラは壁画の形態との類似性などから古代エジプトのウズラとの関連性を指摘する説もある。一方、日本在来の家禽ウズラは、400年ほど前に野生ウズラを家禽化したと言われるが、遺伝的には、むしろ中国の野生ウズラに近いとも言われている。
ウズラの「聞きなし」(鳴き声を言葉に置き換えたもの)は、「御吉兆(ゴキッチョ-)」でおめでたいことから、戦国時代には戦場に持っていくこともあり、啼き合わせは、江戸時代から明治にかけても盛んに行なわれた。鳴き声のよいウズラを山野に求めるとともに、中国から輸入することも珍しくなかったと聞く。
古代エジプトのウズラの子孫が日本の山野で繁殖し(中国東北地方の野生ウズラもこれに近いとも言われる。)、それとは若干別系統のウズラが、家禽として飼われ、それぞれに戦国武士の勇を鼓舞するとともに、江戸庶民にも娯楽を提供してきた、と聞くとウズラの世界も奥深い。
ただ、現在、日本で大規模に飼育されているウズラは、アメリカやフランスから輸入された品種によって品種改良がなされ、日本野生種や在来の家禽ウズラとのつながりは非常に薄い。言わずもがなだが、日本の山野のウズラの増減は、スーパーのウズラの卵の価格とは全く連動しない。