齊藤 紀子(企業と社会フォーラム(JFBS)事務局長)
今号では、2013年9月開催の国際ジョイント・カンファレンスより「CSRとコーポレートガバナンス:統合レポート」セッションの内容を紹介します。統合レポートについて企業の多くは、どのステークホルダーに何をどの程度伝えればよいのか悩みながら試行錯誤していること、その機能や効果に関して、懐疑的な企業と肯定的かつ積極的に取り組む企業があることが指摘されました。
そして重要なのはレポートそのものよりも、統合レポートの作成プロセスを通して社内の様々な部署が連携し、経営に非財務課題を組み込む統合的思考が育まれること、ステークホルダーに対して信頼性の高い情報を開示し透明性を高めることであるという議論が行われました。
■業統合思考に基づく経営戦略と情報開示の重要性
まず始めにヨアヒム・シュワルバッハ教授(フンボルト大学)より、財務情報と非財務情報を単に1冊のレポートとして綴じればよいのではなく、財務的パフォーマンスに社会・環境・ガバナンスに関するパフォーマンスを結びつけていく戦略、そしてその取り組みについて情報開示していくことが求められていることが指摘されました。
キャロル・アダムス教授(モナシュ大学)からは、統合レポートをどう理解するか整理がなされました。統合レポートは、財務、製造、人的、知的、社会関係、自然の6つの資本の提供者を対象とした、新しい企業報告の形であること。短期主義への反省にもとづき、長期的視野による戦略計画を立て、ステークホルダーにとって価値を生み出すビジネスモデルを他部署と連携して開発していくことが必要であること。
こうして社内に統合思考が醸成され、サステナビリティに関する諸課題について経営陣の関心を喚起することが、大きなメリットであると指摘されました。
アラン・アイケン氏(ファーウエイテクノロジー社)からは、統合レポートは発行していないものの先進的取り組みを行う同社がサステナビリティをどう企業経営に組み込み、ステークホルダーに対して透明性を確保しているか紹介されました。
ジアン・ワンジュン准教授(北京大学)からは、CSRや統合レポートをめぐる中国での動向が報告されました。中国経済が成長しはじめた1980年代より、水の汚染や製品の安全性などが問題になったこと。1990年代後半には、国境を越えたバリューチェーンの広がりに伴う監査への対応という形で、企業はCSRへの対応を迫られるようになったこと。
また、2005年の「調和の取れた社会(harmony of society)」構想、2006年の新・会社法成立などの政府によるイニシアチブに加え、ソーシャルメディアの普及による市民の情報アクセスおよび福祉や安全に対する関心の高まりなどを背景に、企業が情報公開の圧力にさらされるようになったこと。