齊藤 紀子(企業と社会フォーラム(JFBS)事務局長)
今号では、昨年9月開催の国際ジョイント・カンファレンスでの「ビジネスと人権」セッションの内容を紹介します。本セッションでは、ビジネスと人権をめぐる国際的議論が進みさまざまな国際基準が策定される一方、日本企業においては、今人権問題として何が問われているのか、ステークホルダーとはどのような関係をつくり、いかなる優先順位をもって取り組んでいけばよいのか、手探りの状態にある現状や今後の課題が報告・議論されました。
まず熊谷謙一氏(国際労働財団)からは、最近のバングラディシュでの繊維工場ビル崩壊事故や、日本のブラック企業問題などを例に挙げ、労働の現場で起きているこれらの問題は人権問題であるとの指摘がなされました。
その対策として国際的には、ILO中核的労働基準をもとにした国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGP)やISO26000の策定、小売大手企業約80 社が中心となった国際協定の締結がなされていること。日本国内でも政府によるブラック企業の実態調査など、様々な取り組みが進められていること。今後はとくにバリューチェーンにおけるCSRの促進や人権デューディリジェンス、対話を通じたコーポレート・ガバナンスの改善が求められることが指摘されました。
黒田かをり氏(CSOネットワーク)からは、企業とステイクホルダー(以下SH)のエンゲージメントの重要性が指摘されました。企業と人権に関する「保護、尊重、及び救済枠組み」の実行プロセスのうち、特に次の(2)(3)においてSHエンゲージメントが必要になります。
(1)人権を尊重する方針を立て、(2)人権への影響の評価を行い、社内部門・プロセスに組み込み、取り組みを継続的に評価し、評価内容を対外的に報告・発表する(デューディリジェンス・プロセス)、そして(3)人権侵害犠牲者の救済手段を整える。従来排除されてきたマイノリティも含めて誰がSHなのかを見極め、SHコミュニティを形成し、エンゲージメントを行い、発生した問題は対話によって解決することが重要です。