編集長インタビュー: 鎌仲ひとみ氏(映画「ミツバチの羽音と地球の回転」監督)

■「19兆円のバックエンド」とは

鎌仲: でも、私は電力会社の中にも、経済産業省の中にも本当に現実派というのはいると思うんですよ。

森: 現実派?

鎌仲: それは飯田さんも言ってますけど、核燃料サイクルとか、あるいは「もんじゅ」とか、日本のエネルギー政策がこれからどれくらいの投資をしなければ実際その絵が描けないか。絵は描いてあるんだけど、それが現実に落ちてくるには、膨大なコストと時間がかかってしかも確実性がないわけです。だからこそ世界の潮流は短期間にできる小規模分散型で、かつ経済的にもいいという自然エネルギーに向かっている。しかもCO2も出さない、放射能も出さない。そういうことを現実的に見て、このまま原子力推進路線を続けても、国益にならないと。だから予算ばかりかかるし、どんどん問題が多様化していったりとか、それも解決しないまま滞積していくとか。そういう現実派の官僚達が「19兆円のバックエンド」がかかるという書類をバラ撒いたりとかして、一時拮抗していたのです。

森: 書類をバラ撒いたのですか。

鎌仲: そうですよ。

森: その書類を見たいですね。

鎌仲: ネット上にありますよ。一時消えていたんだけどまたアップされました。

森: どうやって探せばいいんですか。

鎌仲: 19兆円のバックエンドって探せば出てきますよ。

森: 誰が書いたか分からないのですか?

鎌仲: 分からないの。若手の官僚たちだろうと言われていて、省庁の中にいる人でなければ書けないような非常に知的な文書で、このまま続けていけば確実に、最低でも19兆円のお金がかかるし、後始末するだけで。それは全部国民に払うことになる、国民が知らないままにこんなことをやっていいのか――と書いています。

森: それは、面白い形の怪文書ですね。

鎌仲: 怪文書だったのですよ。六ヶ所再処理工場がまさに最終試験段階に入ろうとする前に、RPS法が出てくる時にもバラ撒かれて、それですごく官僚の中でもせめぎあいがあったんだけれども、結局は保守派が押さえつけてしまった。

森: そうですね。それはネット上にあるんだから、こっちでダウンロードしてきて例えばオルタナとか、そちらの鎌仲さんの会社のホームページに貼ってもいいのですよね。

鎌仲: うん、いいですよ。みんなこぞってダウンロードしたんですよ。

■ビル・ゲイツの新たな原子力プロパガンダ

森: また別のせめぎあいをお話したいと思うんですけれど、自然エネルギーが注目されてくる中で、温暖化対策ということで、また原子力だといい出してる人たちもまた出てきています。例えば東芝さんがウェスチングハウスを買って、それからつい2―3カヶ月くらい前にビル・ゲイツと組んで小規模の原発を作りたいと、それを日経が一面で書きました。

鎌仲: あれは本当に原子力プロパガンダです。ビル・ゲイツがやるというだけで、IT業界の若者達は「やっぱり原発しかない」と、思考停止に陥って、バーっとなびいた。でも本当に知識があって、分かっていればビル・ゲイツがやろうとしてるあの原発というのが、まだ実験段階でもなく、全く何も開発されておらず、しかも今、地球上に非常に強力な放射性物質を閉じ込めておく物質が存在しないことは明らかなのです。その物質を作り出すってことを60年間研究してきて、何一つ進歩がない。

森: でもね、それが一面のアタマ記事でこんなに大きくでかくなってしまった。

鎌仲: まぁ日経は偏ってますね。ふふふ。

森: 新聞も、偏る時と偏らない時があるんですよ。いつも偏っているわけじゃない。

鎌仲: 原子力に関してはメディアは全体的に偏っていると思われます。

森: そう。そこで残念だったのはそういったことが一行も書かれてなかったのです。あの時一面のアタマ記事で、企業面に解説記事まで載ったんだけど、環境面から見た話とか、コスト面から見た話とか、実際その技術がどうなのかという話が一行も書かれてなかった。つまり登場人物が東芝と、ビル・ゲイツだったからあれだけ大きく報じた。サイドストーリーだってビル・ゲイツが中心に書かれた。確実に言えることは、温暖化対策という名前に乗じて原子力をさらに普及させようと考えてる人がやはりいるということです。

鎌仲: 確実にいるから、今そうやっているんじゃないですか。

森: これがまた新たなせめぎあいのパターンになってくる。さらに言うと、彼らは原子力もクリーンエネルギーだとさえ言うのです。それによって、さらに惑わされる人たちが出てくる。

鎌仲: そう、それは原子力プロパガンダなので。長い間、そういう風になってきた。

森: 新たなプロパガンダの形が今出て来てきているわけですよね。そんな中で民主党は自然エネルギーのシェアを増やし、一応2020年までに10%という目標を掲げています。僕はそれでも手ぬるいと思うのですが、現状の1.63%と比べたら、それでも10倍近い。

鎌仲: 自民党のままだったら、そのまま1.63%だったのでは。

森: それを考えると、ましはましなんですけどね。

鎌仲: でもその代わりに、原発を14基増設すると言ってるので、14基の増設のためにどれくらい税金が投入されるかを考えると、莫大なお金がそこに流れるので、その分自然エネルギーを増やすべき投資がそこに吸われちゃう。現実的にはね。

森: 14基でいくらくらい掛かるのですか。

鎌仲: 一基だいたい4千―5千億円だから、全部で7兆―8兆円くらいかかるでしょう。今どんどんコストが上がっているし、ウランのコストも上がっている。原油のコストが上がると建設費のコストが上がるんですよ。それだけあったら、3基分の原発を建てる予算があったら、風力発電で日本はものすごい発電所ができちゃう。

森: やっぱり、民主党は自民党に比べてましだと言われつつも、まだそれだけの矛盾をはらんでますよね。

鎌仲: それはね、普通の人たちが原発がなかったら、ロウソクで暮らさなきゃいけないと思ってるからです。それが一つ目のプロパガンダです。原発がなければ日本はエネルギーがない、という風にそれもすごく長い間宣伝されてきたでしょ。それと今おっしゃった、「CO2を出さないからクリーンなのだ」と。この3つが大きな原子力プロパガンダなのです。そうではなく、私たちにはもう一つ選択肢があるのです。自然エネルギーという選択肢を、もっと日本の中に増やすことができるし、日本にはものすごい資源があるし、ポテンシャルもあるし、安いし、安全だし、良いことがまだまだいっぱい数え上げればキリがないほどあるのに、長い間の宣伝によって人々の心とか、気持ちとか、意識が固められてしまった。、だから私はこの映画で、あれ、そうじゃないんだという選択肢をはっきりと示したいと思ったのです。

森: なるほど。実はオルタナも2年前に「頑張れ!自然エネルギー」という特集を出しましたが、まだ世の中の人たちの意識は変わらないですよ。一本の特集記事よりも、映画の方がはるかに影響力があるかもしれないけど。

鎌仲: 映画に付随していろんなメディア、オルタナさんとか書いて下さって、繋がって連携していって点と点が面になった時に、あれなんか見えてくるものが――という感じになる。

森: 皆でやらなきゃいけないっていうのは確かにあるかもしれないですね。

鎌仲: 繋がりあって、相乗効果を生み出して、情報と情報がキャッチボールできる時代なので。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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