生物多様性クレジット、2030年には市場規模20億ドルに

記事のポイント


  1. 「生物多様性クレジット」への国際的な注目が集まる
  2. 生物多様性保全に向けた資金が著しく不足していることが背景にある
  3. 世界経済フォーラムは市場規模は2030年に20億ドルに達すると予測した

生物多様性保全に向けた新たな資金調達メカニズムとして、「生物多様性クレジット」への注目が集まる。生物多様性保全に向けた資金が著しく不足していることが背景にある。2019年時点の資金ギャップは年間約7000億ドルに達した。(オルタナ輪番編集長=池田 真隆)

生物多様性クレジットとは、自然への貢献を示した証書であるが、国際的に合意された定義はまだ存在しない。COP15(2022年12月)で発足したBCA(生物多様性クレジットアライアンス)などの推進機関がそれぞれクレジットの枠組みを設定し、市場の創出に向けて取り組んでいる。

生物多様性クレジットの枠組みは議論中だが、カーボンクレジットと比べて大きな違いがある。一つ目は、測定単位が標準化できないことだ。

カーボンクレジットは「1トンのCO2等価量(tCO2e)」という共通の測定単位で定量化してきた。一方、生物多様性クレジットには共通尺度が存在せず、測定単位は多様だ。

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さらに、オフセットを目的にしないことも大きな違いだ。カーボンクレジットは購入する企業にとって、排出量のオフセットが主な目的だ。だが、生物多様性クレジットはオフセットが主目的ではなく、自然への貢献を示す手段として利用する傾向にある。

WWFは生物多様性クレジットについて、オフセットを主目的に利用すべきではないと見解を出している。

生物多様性の損失は経済の損失につながる

生物多様性クレジットへの注目が集まる背景には、「資金不足」がある。自然資本の経済的価値は従来の市場では適切に評価されず、その結果、生物多様性保全に向けた資金は著しく不足していた。

COP15では、生物多様性に関する23の2030年目標を採択したが、その目標の一つに「2030年までに年間2000億ドルの資金動員」がある。これは2022年の資金フローと比べて約倍増の水準だ。

この野心的な資金動員を実現するための有効な手段として生物多様性クレジットは位置付けられている。世界経済フォーラム(WEF)は、世界のGDPの半分以上(約44兆ドル)は自然に依存する経済活動から生み出されているとしており、生物多様性の損失は環境悪化だけでなく、経済の損失にもつながる。

市場規模は50年までに690億ドルに

約9490億ドル(2023年、ロンドン証券取引所)に達するカーボンクレジット市場と比べて、生物多様性クレジット市場はまだ黎明期にある。BloombergNEFは、生物多様性クレジットの市場規模は100万ドル以下に留まるとした。

しかし、市場の成長ポテンシャルは大きい。世界経済フォーラムは、2030年に20億ドル、2050年に690億ドル規模の市場に成長する可能性があると予測した。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #生物多様性

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