音楽とともに鑑賞する新しい美術館体験、エリック・サティ展[三浦 光仁]

ヒトの聴覚はもの音を探すように出来ています。さまざまな音を止め、取り除き、静かになったとき、部屋の片隅に置いた時計がかなりの音を立てて時を刻んでいることに気づくことがあります。

手書きの楽譜(一部)
手書きの楽譜(一部)

私たちが生活している空間に無音という環境はあり得ないのです。しかも本当の無音を実現している「無響室」などに入ると10秒としてそこにいることができなくなるくらい不安な状態に陥ります。音が響かず、消えて行く環境は、ヒトとしては耐えられないのです。空気感を和らげるために作られた音楽があります。いまではBGMと呼ばれています。

サティのピアノが好きです。かなりの異端ではありますが、BGMとして流れているピアノ曲として、違和感なくかけ流しできる美しい旋律です。

感情や想いを伝える手段としての音楽もありますが、(かなりの割合だと思います)空調のような音楽も必要で(例えばモーツァルトもたくさんそのような曲を作っています)、そういう意味で、感情の共振を誘発しない、破綻のないメロディは聞いていて心地良いものです。

家具のように溶け込む音楽を作ったサティは、BGMの先駆者ともいえるだろう
家具のように溶け込む音楽を作ったサティは、BGMの先駆者ともいえるだろう

そんな評価をサティが好むかどうかは分かりませんが「家具のような音楽」みたいにインテリアとして流しておくことを想定していたのであれば、やはりBGMの先駆者と言えるでしょう。

昔、新井満さんがオンフルールを訪ねたように、セーヌ河の河口に位置するこの港町に行った事があります。彼が初めての写真集「オンフルールの少年」を出版するずっと前のことです。エリック・サティの生まれ故郷、ノルマンディの小さな町にこれと言って見るべき物もなく、ただ、古い港とそこに立ち並ぶ、石造りの家並みを眺めるだけで何時間も過ごしました。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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