記事のポイント
- 環境NGOの気候ネットワークが、各政党の気候変動エネルギー政策を分析
- 最大与党の自民党は25点満点中「マイナス1点」と低い点数だった
- 野党は25点満点の政党がある一方で、マイナス5点という低スコアの政党も
第27回参議院議員通常選挙の投開票が、7月20日に行われる。参院の定数248のうち、半数124を入れ替える選挙を実施する。今回は東京選挙区の非改選欠員1(任期3年)を加えた計125議席を争う見通しだ。投開票を前に、オルタナ編集部は各政党のサステナビリティ領域の方針を、3回に分けてまとめた。1回目は環境NGO「気候ネットワーク」の分析に基づき、気候変動エネルギー政策について紹介する。(オルタナ副編集長・長濱慎)

特定非営利活動法人「気候ネットワーク」(本部:京都市)は7月7日、11政党の気候変動エネルギー政策に関する分析結果を発表した。各政党の公約や政策集を基に、5つの論点について分析した。評価は25点満点で行い、結果は以下の表の通りだ。

記号の読み方
◎(5点) 具体的な記載があり、なおかつ意欲的な内容・目標
〇(3点) 記載があり、現状からの向上はあるが、意欲的とは言いがたい
△(1点) 記載があるが、現状追認で、科学的知見や国際合意等で示された望ましい政策とは言いがたい
✖(-1点) 記載はあるが、科学的知見や国際合意等で示された望ましい政策に逆行
―(0点) 記載がない
ここでは11政党の中から、最大与党の自由民主党、野党第一党の立憲民主党、25点満点を得た2政党(日本共産党、れいわ新選組)、最低スコアのマイナス5点だった参政党について紹介する。
◾️「パリ協定離脱」を掲げる参政党
論点1 「気候目標」:パリ協定1.5℃目標に向け、2030年・35年の温室効果ガス削減目標を引き上げる
自民党 △
・2030年度46%削減、さらに50%の高みに挑戦
・35年度60%削減、40年度73%削減(各2013年度比)
立憲民主党 ◎
・2035年66%以上の削減(2013 年比)
日本共産党 ◎
・2030年までに50~60%削減
・35年度までに13年度比75~80%削減(19年度比71~77%)
れいわ新選組 ◎
・2030年までに70%削減し、50年までのできるだけ早い時期にゼロに
参政党 ✖
・パリ協定の離脱と炭素目標の撤回
・電気料金高騰・環境破壊・資本流出を助長する再エネ推進を止める
◾️石炭火力に対する方針の違いが明白に
論点2 「脱石炭と火力政策」:2030年代前半までに国内の石炭火力を全廃
自民党 ✖
・脱石炭の記載なし
・2050年カーボンニュートラル実現を見据えた上で、火力発電の次世代化・高効率化を推進しつつ、非効率な石炭火力のフェードアウトに着実に取り組むとともに、脱炭素型の火力発電への置き換えに向けた水素・アンモニア等の脱炭素燃料の混焼、CCUS/カーボンリサイクル等の火力発電からのCO2排出を削減する措置を促進
立憲民主党 〇
・脱石炭の記載なし(緊急時のバックアップ電源として活用)
・石油火力、石炭火力については、CO2 排出量がLNG 火力に比べて多いことから、当面緊急時のバックアップ電源としての活用を基本とする
・燃料アンモニアの混焼技術などの新技術開発を支援し、将来的に燃料アンモニア専焼、CCS、CCU など、カーボンニュートラルに必要な新技術の可能性を探る
日本共産党 ◎
・2030年度までに脱石炭
・石炭火力からの計画的撤退をすすめ、30年度にゼロに
・石炭火力発電延命、原発推進に巨額の国費を投入するGXには反対
・再エネ小売業者の負担で、原発や石炭火力を支援する「容量市場」の廃止を
れいわ新選組 ◎
・2030年までに脱石炭
・脱原発・脱炭素までは既存の火力発電所を活用し、段階的に廃止する
・石炭火力発電所の新設を禁止し、30年までに石炭・石油火力発電所の運転を終了
・国内の金融機関や投資機関が、外国の石炭火力発電所建設に融資・投資することを禁止
参政党 ✖
・脱石炭の記載なし
・再エネより「CO2 排出実質ゼロ」の次世代火力発電を推進
・次世代原子力・核融合・新たな火力・水力・バイオマス・水素・地熱など、民間投資だけでは賄えない分野には特に積極的に国として投資
論点3 「水素・アンモニア」:アンモニア混焼による火力発電の延命を認めない
自民党 ✖
・革新的技術の研究開発から社会実装まで一貫した支援を実施
・脱炭素型の火力発電への置き換えに向けた水素・アンモニア等の脱炭素燃料の混焼、CCUS/カーボンリサイクル等の火力発電からのCO2排出を削減する措置の促進に取り組む
立憲民主党 〇
・燃料アンモニアの混焼技術などの新技術開発を支援し、将来的に燃料アンモニア専焼、CCS、CCU など、カーボンニュートラルに必要な新技術の可能性を探る
日本共産党 ◎
・石炭火力での水素・アンモニア混焼やCCS追設など火力発電も対象とする予定の長期脱炭素電源オークションや、石炭火力発電延命、原発推進に巨額の国費を投入するGXには反対
れいわ新選組 ◎
・国の水素基本戦略を抜本的に見直し、脱炭素化の代替手段がない分野での活用をすすめる。再生可能エネルギーを利用した国産のグリーン水素・グリーンアンモニアの供給を拡大
参政党 ✖
・次世代原子力・核融合・新たな火力・水力・バイオマス・水素・地熱など、民間投資だけでは賄えない分野には特に積極的に国として投資し、日本発の新技術を育成し実用化することで、エネルギー自給率の向上とエネルギー価格の低減および、世界での新たな分野での主導権確立を推進
◾️再エネと原発の方針も違いが明白に
論点4 「再エネ」:2035年の電力部門脱炭素化・再エネ100%を目指す
自民党 △
・再エネ目標なし
・2050年カーボンニュートラルに向けて、再生可能エネルギーの主力電源化を徹底し、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら、安全の確保を前提に最大限の導入を促す
・洋上風力発電の導入拡大:2040年までに3,000万kW~4,500万kWの大きな国内市場を作り出し、洋上風力の導入拡大と産業競争力強化の好循環を実現
・水力発電の更なる活用:全国100地点を念頭に自治体主導の下での案件形成等を促進
立憲民主党 ◎
・2050年再エネ100%(発電)
・気候危機対策を強力に推進し、2050年再生可能エネルギーによる発電割合100%を目指し、50年までのできる限り早い時期に化石燃料にも原子力発電にも依存しないカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)達成を目指す
・今後10 年で省エネ・再エネに200兆円(公的資金50兆円)を投入し、年間250万人の雇用創出、年間50兆円の経済効果を実現
日本共産党 ◎
・2035年度の電力比率で再エネ8割、40年度までに100%
・大胆な再エネ導入で、2035年度の電力比率を8割とし、40年度までに100%をめざす
れいわ新選組 ◎
・2030年までにエネルギー供給の70%、2050年までのできるだけ早い時期に100%
・エネルギー消費量を6割削減し、2050年までに自然エネルギー100%、温室効果ガス排出ゼロを目指す
・2030年までにエネルギー供給の70%を、再生可能エネルギーでまかなうことを目指す。そして50年までのできるだけ早い時期に再生可能エネルギー100%を達成
・10年間で官民あわせて200兆円のグリーン投資を行い、再生可能エネルギーや省エネルギーのほか、エネルギー供給インフラや脱炭素化新技術などのグリーン産業で、毎年250万人規模の雇用を創出する
・エネルギー100%自給型の快適な公営住宅を建設し、高齢者・単身者などの住まいの権利を保障する
参政党 ✖
・再エネ推進を止める
・脱・脱炭素政策で、電気料金高騰・環境破壊・資本流出を助長する再エネ推進を止める
・既存ダムを活用した水力発電の電源構成比を2割に引き上げ、環境破壊を伴うメガソーラー等を撤廃
・再エネより「CO2 排出実質ゼロ」の次世代火力発電を推進
論点5 「原子力」:小型原子炉を含む原発の新増設を認めない
自民党 ✖
・原子力の最大限活用
・原子力発電所の基数は、東日本大震災前の54基から現在の36基(建設中を含む)に減少し、発電量における比率も大幅に減少している。新たな制度に基づく運転期間の延長、運転中の設備点検などによる設備利用率向上にも取り組み、既存の原子力発電所を最大限活用
・地域の理解確保などを大前提に、廃炉を決定した原子力発電所を有する事業者の原子力発電所のサイト内での次世代革新炉への建て替えを対象として、具体化を進める
・エネルギー安定供給の責任を果たしつつ、脱炭素社会を実現していくため、原子力は、再エネとともに、脱炭素電源として重要であり、安全性の確保を大前提に最大限活用
立憲民主党 〇
・2050年までのできる限り早い時期に原発ゼロ社会を実現
・地域ごとの特性を生かした再生可能エネルギーを基本とする分散型エネルギー社会を構築し、あらゆる政策資源を投入して、原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会を一日も早く実現
・原子力発電所の新設・増設は行わず、全ての原子力発電所の速やかな停止と廃炉決定を目指す
日本共産党 ◎
・すみやかに原発ゼロ
・原発を再稼働させず、新増設も輸出も認めない
れいわ新選組 ◎
・原子力の即時廃止
・原子力発電所は即時、廃止。国が事業者から買い上げ、最先端の技術を用いて慎重に廃炉をすすめる
・原発は廃止し、グリーン産業に10年間で少なくとも200兆円(毎年国費5兆円、民間資金15兆円)の投資を行い、持続可能な産業への転換を加速させる
参政党 ✖
・原子力活用
・次世代原子力・核融合など、民間投資だけでは賄えない分野には特に積極的に国として投資し、日本発の新技術を育成し実用化することで、エネルギー自給率の向上とエネルギー価格の低減および、世界での新たな分野での主導権確立を推進
・次世代型小型原発や核融合など新たな原子力活用技術の研究開発を推進。
以上のように、一部を除くほとんどの政党がパリ協定1.5℃目標の達成に向けた脱炭素政策を掲げる。しかし、そのアプローチ方法に大きな違いがある。特に「グリーンウォッシュ」とされる石炭火力のアンモニア混焼や原子力については、有権者が正確な情報にアクセスしリテラシーを高めることが重要だ。
気候ネットワークは分析結果について「各党の気候変動対策・政策を評価するものであり、特定の政党・候補者を応援したり支持したりするものではない」としている。分析結果の全文は、こちらから。