記事のポイント
- 日産自動車は環境配慮型の旅行ツアーを通して、EVの推進を図る
- 旅先でEVに乗る機会を増やし、乗り心地など性能を訴求する狙いだ
- 「車離れ」が進む若年層やα世代にも働きかけるソーシャルマーケティングだ
日産自動車は、環境配慮型の旅行ツアーを通して、電気自動車(EV)の推進を図る。旅先でEVに乗る機会を増やし、乗り心地など性能を訴求する狙いだ。同社のEV購入者の中心層は60代だが、この企画では「車離れ」が進む若年層にも働きかける。(オルタナ副編集長=池田 真隆)
「2021年ごろから毎年、EVとのタッチポイントを設ける施策を打っていたが、単年度の施策で終わったり、購入までつながらなかったりした。中長期的な視点で考えたときに、観光とEVをつなげ合わす企画が有効だと考えた」
こう話したのは、同社の日本マーケティング本部チーフマーケティングマネージャーオフィスに所属する 菊地美春氏だ。「旅行先ではレンタカーやカーシェアリングを使うことが多いが、その時の選択肢としてEVを提供する。旅先で自然にEVに乗る機会を増やしたい」と話した。
2050年カーボンニュートラルを実現するには、EVシフトが欠かせない。だが、EVのマーケットシェアでは、日本は先進国で最低だ。中国で50%、欧州で20%、北米、韓国、豪州で10%だが、日本はわずか3%だ。
こうした状況に日産自動車は日本旅行と組んで、環境配慮型の旅行ツアーの企画に取り組む。これは、「グリーンジャーニー」という名称で、この取り組みにJRグループの鉄道会社など12社も賛同を表明した。環境省や東北大学とも連携する。
賛同企業各社が自社のサービスを提供し合い、国内旅行に伴う温室効果ガス(GHG)のネットゼロをめざす。公式サイトでは、お勧めの旅行ツアーを「グリーンジャーニー」として紹介する。現在募集中のツアーは、熊本県阿蘇市と三重県志摩市の2カ所だけだが、2033年までに全国200エリアへの拡大をめざす。
■「α世代との接点もつくりたい」
環境配慮や地域貢献につながる「サステナツーリズム」はじわり広がるが、まだ需要は少ない。菊地氏は、環境負荷が低いから選ぶのではなく、「楽しいから選ぶツアーを企画したい」と話す。
阿蘇市のツアーでは、電動アシスト付きマウンテンバイクで草原を走ったり、特産の「あか牛」などの食材を味わったりできる。伊勢志摩のツアーでは、シーカヤックで海の環境を学んだり、地元産の魚介類を食べたりできる。
日産自動車は、こうしたツアーの途中でEVでの移動機会を設ける。同社の高橋雄一郎・日本事業広報渉外部部長は、「今EVを購入することが難しい層にもアプローチしたい。特に、SDGsを学校で学んでいるα(アルファ)世代にもこの企画で接点をつくりたい」と話した。
α世代とは、ミレニアル世代の次の世代だ。2010年から2024年に生まれた世代を指し、最高齢でも14歳だ。同社はグリーンジャーニーを通して、中長期的な視点で、α世代向けにEVの普及を狙う。
■1000万人動員で「キャズム」の克服へ
同社は2018年からEV利用による地域課題の解決に取り組んできた。「ブルー・スイッチ」と名付けた取り組みだ。この取り組みでは、すでに260以上の自治体・企業と協定を結ぶ。
グリーンジャーニーのように「旅先でEV」を普及する取り組みは、ブルー・スイッチで築いた自治体や企業とのつながりが基盤にある。
グリーンジャーニーの賛同企業は今後増やしていき、2033年までに1000万人の動員をめざす。日本の人口の10分の1にアプローチすることで、キャズムの克服を狙う。キャズムとはイノベーター理論で使うマーケティング用語だ。初期市場から普及市場に広がるための「溝」を指す。
イノベーター理論では、キャズムを乗り越える条件は、ユーザー全体の16%程度を超えることとする。まずは10%へのアプローチを狙い、グリーンジャーニーのスタンダード化を狙う。グリーンジャーニーが一般化する過程で、EVとの接点も増やす。