記事のポイント
- 「カンヌライオンズ」受賞作品の多くは社会課題の解決を掲げる
- サステナ広告は増えたが、メッセージを掲げるだけでは伝わらないことも
- カンヌライオンズの受賞作品から「伝わるサステナ広告」を考える
今年6月に開催された世界最大の広告祭「カンヌライオンズ」では、今年も社会課題につながる実践的なアプローチに取り組む作品が多く登場した。今回は、SUSTAINABLE DEVELOPMENT GOALS(サステナブル・ディベロップメント・ゴールズ)部門の受賞作品から、実効性があり、共感を集めた作品を紹介する。(サステナビリティ・プランナー=伊藤 恵)
■販売アプリを緊急支援ネットワークに活用へ

飲料物流プラットフォーム「BEES(ビーズ)」は、ブラジル南部で発生した大洪水に対し、販売アプリを24時間以内に緊急支援ネットワーク「SOS BEES(ビーズ)」へと変貌させた。
アプリに実装した機能を生かして、リアルタイムで被災地の被害状況を地図上でマッピングしたり、プッシュ通知機能を活用し、清掃用品・冷蔵庫・法的支援・心理ケアなどの支援物資を即座に配布することに一役買った。従来のB2Bチャネルを、危機に寄り添う「生活再建インフラ」へと転換させたのだ。
注目すべきは、ブランドの中核にある「バーを見捨てない」という姿勢を、言葉ではなく行動で証明した点だ。
支援したバーの82%が一年後も営業を続け、売上高回復への貢献度は98.8%に達したという。広告ではなく実装を通じて信頼を構築した好例と言える。この作品はサステナブル・ディベロップメント・ゴールズ部門でブロンズを受賞した。
■通信インフラで災害を早期発見へ

通信大手Rogers(ロジャーズ)は、山火事が頻発するカナダの農村部で、既存の通信タワーにAI搭載の検知センサーを後付けした。煙や熱、化学物質を識別するアルゴリズムを共同開発し、ロジャーズの5Gネットワークを通じて即時に緊急対応機関へ警報を送信した。
この「WILDFIRE WATCHTOWERS(ワイルドファイヤー・ウォッチタワーズ)」は、通信インフラを「人命を守る早期警戒システム」へと変革した点で画期的だった。予測分析や気象データを基に、火災リスクの高い地域を特定し、リアルタイムでのアクションを可能にした。
早期に火災を検知することで数万haの自然と地域を守りCO₂排出も抑制。この仕組みそのものが、メディアや行政からの信頼と注目を集めることに成功した。この作品もサステナブル・ディベロップメント・ゴールズ部門でブロンズを受賞した。
リアルな問題にテクノロジーと創意工夫で応える構造をつくることで社会課題を解決していく。メッセージを伝えるだけではなく、実行することがこれからの企業には求められているといえるだろう。