記事のポイント
- 米大手貨物輸送会社UPSは「猛暑対策10カ条」を軸に労働環境を改善する
- 同社の従業員は熱中症によって運転中に事故を起こしたことも
- 地域単位で作業プロセスを見直し、ボトムアップ型で安全対策を強化へ
米大手貨物輸送会社ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)は「猛暑対策10カ条」を制定し、労働環境の改善を図る。同社の従業員は熱中症によって運転中に事故を起こしたこともある。地域単位で作業プロセスを見直し、ボトムアップ型で安全対策を強化する。(ニューヨーク在住・サステナビリティライター=古市裕子)

気温40度を超える猛暑の中、米国大手貨物輸送会社UPSの配送ドライバーは、冷房設備がない配送トラックに乗り込み、長時間の労働を強いられている。
「トラックの背面はオーブンのようだ」「車内温度は130°F(約54℃)に達する」といった声も。過去にはテキサス州で熱中症に陥った従業員が運転中に意識を失い事故を起こしたこともある。病院への搬送が遅れ死亡したケースも報告されている。
こうした状況から、UPSは「猛暑対策10カ条」を制定し、従業員に健康管理を習慣化する。その10カ条は下記の通りだ。
■出発前に約1リットルの水の摂取などを推奨

1.当日の気温と湿度を事前に確認し、活動計画を立てること。
2.出発前に24~32オンス(約700~950ml)の水を摂取し、体内の水分貯蓄を開始する。
3.作業中は毎時間ごとに同量の水を補給し、脱水を予防する。
4.一度に大量の水を飲むのではなく、定期的かつ小まめに摂取することが望ましい。
5.スイカ、トマト、セロリなど水分量の多い果物・野菜を積極的に摂取し、食事からも水分補給を行う。
6.バナナ、アボカド、チアシードなど電解質を含む食品を併用し、塩分・ミネラルのバランスを保つ。
7.暑熱順化(体を暑さに慣らすプロセス)を意識し、無理せず自分のペースで作業を進めること。
8.日陰や通気性の良い場所で定期的に休憩をとると同時に、毎晩7~9時間の睡眠により基礎体力を維持する。
9.頭痛・めまい・吐き気・異常な汗のかき方など、熱中症の兆候に気づいたら即座に対応する。
10.体温が急上昇した場合には氷・冷水で体を冷やしつつ、すぐに緊急サービスを要請することが必須である。
この10カ条は、主に従業員側に健康管理の意識改革を促したものだ。これに加えて、同社は、会社側の改善策として「5つの熱安全対策」を行う。その内容は下記の通りだ。
1.教育・トレーニングの強化:熱中症の初期症状やリスク認知に関する従業員向けトレーニングを実施。特に新人や夏季初勤務の従業員には重点的な教育を行う。
2.冷却資源の提供:全国の営業所や倉庫に対して、10万本の冷水用ジャグ、3千台の製氷機、2千基のウォーターファウンテンを設置し、いつでも水分補給ができる環境を整備。
3.冷却ウェア支給:ミッション社と共同開発した冷却スリーブ、帽子、ゲイターなど100万点以上を支給。これらは体表温度(皮膚の温度)を最大で16℃下げる効果があり、屋外業務の身体負荷を軽減する。
4.輸送車両の熱対策強化:2023年から導入された新型トラックには冷房を標準搭載。従来車両にも、排熱防止のための断熱シールド、吸気ファン、換気扇を装備し、内部温度の上昇を抑制する。
5.安全委員会の活用:全米に2500以上ある「健康・安全委員会(CHSP)」が、地域単位での作業プロセス見直しや改善提案を担い、ボトムアップ型の安全強化体制を構築する。
UPSで長年配送ドライバーを務めるジョエル・レイエス氏は、「複雑に考える必要はない。準備、水分補給、そして計画的な休息がすべてだ」と語った。今後ますます厳しくなる気候環境に対し、UPSの行動規範と設備投資の融合は、持続可能な企業運営のモデルケースとして他企業の参考にもなり得るだろう。